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颯はそれらの施設には立ち寄ることはなく、三階にある展望デッキのようなスペースへと向かった。いくつかのいすや机が並べられているそこは様々な飲食店が集まっているフロアと繋がっており、買ったものをそこで食べることができるようにもなっている。今は寒いので、中の方のスペースで食べている客ばかりで外により近いこの展望スペースでは食事をしている人はいなかった。また、人もまばらであった。
ここから北の方を見ると白い壁のようなルイミの山とその上にかかっている雲をうっすらと見ることができる。
颯は手前の方にあった椅子に座った。
公園での時間もそうであるが颯はこの時間も好きであった。
ただ遠くの方を見つめて、考え事をしたりしなかったり、世界にただ一人の自分が終わりゆく世界を見つめている、そんな感覚にさせてくれるのでこの時間が好きであった。
扉の開く音がして、颯の世界に人がやってきた。その人物は颯の隣のテーブルに座ると、颯と同じように北の方を見つめた。その女性を颯が気にしたのは、その女性が今日図書室から見たあの公園の女性と同じだったからである。その時と同じように少し薄いように思われる白色のコートを羽織っていた。
ここで「朝、目が合いましたよね、偶然ですね」ニコッ、とかできるのなら、一人でこんなところに来るのが趣味の人間にはならなかっただろう。当然声をかけることができず、気にはなったが北の方に目をやった。
「あれ、朝、目があったよね」
突然彼女の方から声をかけられて、颯は驚いた。だがとっさに言葉が出てこない。いや出てくるようなら一人でこんなところに(以下略)
声をかけられた後も颯が黙っていると、彼女は颯の方に体ごと向いて、
「うん、やっぱり君だ。」
そう言うと、さらに続けて、
「あれ、もしかして私のこと分からない」
と、彼女は冗談めかした口調で言った。
正直言うと颯の苦手なタイプのノリである。あまりこういう類の会話に上手くついていけないのである。
だが、確かに自分で、覚えられているはずだと言うだけあって彼女の容姿は人目を引くものであった。それに付け加えると颯の好きなタイプの外見であった。特にポニーテールというのが颯の好みの真ん中であった。
だが向き合って話し合うのはやはり緊張した。第一どこを見ればいいのか。その大きな瞳を見つめながら話すのも恥ずかしいし、少し目線を外して話そうにも胸を見て話しているように誤解されるかもしれない。
結局颯は何も言うこともできずにただ黙っていることしかできないのである。そんな様子を見て彼女は少し意地の悪い表情を浮かべて、
「緊張してるの?」
と問いかけてきた。
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