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 小型とはいえど、鉄の塊であるので少し力を緩めてしまうとバランスを崩して倒れてしまう。

 といって、しっかりと握り過ぎてしまうとバイクが前に行かずスタンドが上がらない。


 このバイクは最近、バイトで貯めた金で買ったものだった。

 もっと大きいタイプのバイクも勧められたが、街の中で乗ることを考えていた颯にはその提案は魅力的なものには思わなかった。

 それに、バイトで貯めた予算では厳しいものがあった。

 バイクは深紅の機体であり、この色合いを颯は好んだ。黒にはならないが、深い赤。そこにかっこよさのようなものを見出したのかもしれない。

 バイクを道に出してまたがり、もう一段階キーを回しスターターを押す。一定のリズムを刻む振動が体に伝わる。

ハンドルを回しエンジンを開ける。少し回すのが速かったせいか、体が後ろに残ってしまった。両手に力を込めて体を引き戻し、もう少しエンジンを開ける。

 今日の目的地は隣町にあるショッピングモールである。

10年ほど前にできたのであるが、バイクに乗る前までは電車を使わなければ行けなかったためあまり来たことはなかった。

 だが、バイクに乗り始めてからは目的もなくそこに行くことが増えた。

 特に進路が決まってからはその頻度が増えた。バイクに乗ってどこかに行くというだけで、今の空のように心は晴れるのであった。おそらく何も考えることもなくただ機体に身を任せることができるからだろう。

 そんなことを考えて走っているうちに颯の一番好きな場所へとバイクは差し掛かっていた。

 それは橋であった。颯の住む町とショッピングモールのある街とを結ぶ橋である。

 大体300メートルほどの長さの橋を渡る時、颯はまるで新しい世界へと入っていくような感覚を覚えるのである。

 バイクで走ると実際の時間はわずか20秒ほどの間であるが、眼下に広がる川を超えていく時間はもっと長いものに感じられた。颯はこの感覚が好きであった。そしてやはり今回もその感覚はさび付くことなく、颯を新しい世界に連れていく高揚感に包み込んだ。

 橋を渡り切って少し走ると、目的地のショッピングモールへとたどり着いた。

 バイクを駐輪上に停め、ヘルメットを脱いで、中へと入る。

 この地域で一番の大きさとあってただ見て回るだけでも中々の時間がかかる。

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