1-4
腕時計を見ると8時15分ほどであった。いつの間にか20分ほど経っていたらしい。
氷山であるルイミ山があるのにこの地域にはあまり雪が降らずに冬の間は晴れていることが多い。
それはその前にある小さな山が雪を受け止めているのとルイミから吹く風は横に吹く風が多いため、この地域に向かってくる北風は割合的に少ないという原因があると人々の間では言われている。
雪は少なくてもルイミの前にある山から吹きおろしてくる風はとても冷たく乾いている。今日みたいに雲が覆っている日は珍しいのである。それでも今みたいに窓のそばによるだけでも外の冷気が伝わってくるのではあるが。
颯は次に公園と池の境目の階段に目をやった。颯がいつも座っている場所である。その場所に人が座っていた。女性のようだった。
珍しいな、と颯は思った。
もちろん人が座ることもあるし現に昨日颯もそこに座った。
特に今日は雲のおかげで少し寒さが和らいでいるので座りやすいのだろう。
だがやはり寒いのでこの時期は珍しいし、女性はそこまでの厚着ではないように見えた。
なにより寒がる様子もなくただ山の方をじっと見つめているのが不思議に感じた。
また、その様子が絵になっていて颯は思わず見とれてしまった。
少し見ていると、突然彼女が颯の方を見た気がした。
颯は目があったような気がして慌てて窓から離れた。
時計を見るとさらに5分ほどたっていた。
そろそろ教室に戻る時間である。颯は机の上に置いていた本を棚に戻して図書室を後にした。
教室に戻ると中の様子自体はあまり変わっておらず、ただ先ほどは来ていなかった生徒も登校しており、やはり自習をしていた。
颯は大学を既に推薦で決めているためすることがないのだが、この空気の中で何か他のことをするわけにもいかないのでカバンの中から適当な参考書を読んで合わせることにしている。
そのうち担任が来てHRが始まる。それまでの短い時間である。
今日は雲が出ているので外は少し寒さが和らいでいたがそのかわり教室に陽が入って来ないので暖房がかからないこの時間帯は外と同じくらい寒い。
ポケットに忍ばせたカイロを触りながら参考書を適当に眺めていると担任が来てHRが始まった。この寒さが春に咲くための準備期間だからあとひと踏ん張りだの、受験はマラソンだ、今は35キロ地点など、どこかで、また何回も聞いたセリフを一通り言い終えてHRは終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます