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 図書室にはすでに何人かの生徒がいた。

 ここは受験前でもあまり生徒の数は変わっていない。静けさは今の時期の教室と同じくらいであったが、ここは教室のような息の詰まる静けさではないので心地よい静寂であった。

 颯はいつものように図書室の奥に行く。古い本が多いので古本屋に行った時のような匂いがしている。

 颯はその中から歴史の辞典みたいなのを手に取り、近くにあった適当な机に広げる。

 ここで読むのはこういう類の本が多かった。

 小説などは軽いので借りて、家や教室で読むのが颯のいつもの行動だった。

 それにこういう辞典のような本は貸し出しが禁止されているのでここでしか読めないのだ。今日は近現代の巻のページを適当に開いて読んでいく。


 この地域、いやこの国は約100年ほど前に大きな転機を迎え、そこから発展を遂げた。今めくったページにも書いてあるが、この国の北にあるルイミ山とルイミ海を超えてレヴィン王国というところから飛行機というもので人がやってきたのだ。ルイミ海は冬の間しか氷が貼らず、またルイミ山は少し高いところから見ればまるで雪の壁のようであり、超えるのは当時の人からすれば不可能と考えられていた。

 実際に挑戦をしたものもいたが冬に行ったものは氷の上を吹き荒れるブリザードを見て、また夏に船で行ったものは、氷山の切り立つ壁を見て帰ったと言われている。


 ルイミに一番近いと言われるこのリミストシアの国の北にある地域からも何人もの挑戦者が出たが成功者はいなかったらしい。

 つまり、当時のこの国の技術力では到底無理だったということである。

 だから、その向こうに人が住んでいるなどは思いもよらなかったに違いない。

 そんな中で、レヴィンから人が来たものであるからそれは大騒ぎであった。

 技術力の差は歴然であったし、侵略されるのではないかと訴えた者もいたがレヴィンの人たちは友好的であり技術を教えてくれた。

 なぜそのようなことをするのかと尋ねたものには、それが国の教えだからと返したらしい。そしてしばらくしてこの国も発展し70年ほど前にはリミストシアの代表がレヴィンの王都に初めて行った。


 何回か読んだそのページを改めて読み終えると颯は本を閉じ窓際に向かい外を見る。

 そこからは正門と、公園が見える。

 学校から見ると学校、公園、自宅という並びになっている。正門の方を見ると生徒が続々と登校してきていた。

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