最終日
……生き、てる。いや、当たり前か。
この短すぎるサイクルにも慣れてきた最終日。遅刻しないよう、アナウンスが流れる前に起きて脳を活性化させた。
今日は誰が噛まれただろうか。東雲先輩? 立花先輩? それともGJか。
どっちにしろ今日が最後のチャンスだ、気を引きしめなければ。体に金属が入ったように背筋を伸ばした。
「おはようございます、昨晩は東雲伊吹がいなくなりました。タブレットを持参して広間に集まってください。繰り返します……」
何の前触れもなしに鳴り響き始めるこのアナウンスにももう慣れた。いつもの犠牲者発表、昨晩は東雲先輩。なんでこんなにフラグが回収されるんだ。
だが、なんかひっかかる。
いつものアナウンス、2回繰り返すのも同じ、タブレットを持参して広間に、も同じ。
昨晩の犠牲者は……いや、ちょっと待て。なんか違ったぞ。
脳内にうっすら残っているはずの、薄れ行く記憶を手繰り寄せた。昨晩は……
いなくなりました、だと?
昨日までは、犠牲者は⚪⚪です、だった。なんで今日だけ違うんだ。
まさか東雲先輩はサンタか何かで、襲撃はGJ……いや、この盤面で僕を噛むはずはないし、狩人は自分を守れない。それに、あの無機質な声はサンタがいるなんて一言も言っていない。
じゃあ、なんで今日だけ言い回しが違ったんだ?
「現在、2名が広間に到着しています。まだ集合していない方は、2分以内に自室から出てください」
……結局、遅刻癖は直せなかった。
「これから話し合いを始めます。村人陣営の方は、人狼と妖狐を注意深く探してください。人狼の方は、妖狐に気をつけながら、村人に正体がバレないよう振る舞ってください。妖狐の方は、処刑と呪殺を潜り抜け、生存してください。それでは開始」
「はいはーい、東雲先輩白ね。理由はもうあの人しか残ってなかったから。あと、山田くんが狼って分かってるし適当!」
「僕も、如月さんと同じく東雲先輩白です」
「……え、まって」
「なんですか? 立花先輩」
さっきまでずっとボケーっとしていた立花先輩。何かに気付いたらしく、急にあたふたし始めた。
「私はただの市民」
「立花先輩が狼だったら私と山田くんのどっちか市民騙りですからね~」
「盤面ぐちゃぐちゃになるだけなので、好き好んでやる人は少ないですし」
もし市民騙りなら狼側潜伏なので、流石にそんな勝率低くなる事はしないだろう。
立花先輩が狐という線もあり得ない。もしそうなら朝を迎えていないし、第一僕は佐藤先輩を呪殺した。
「という事は、二人のどちらかが人狼」
「まあ、そうなります」
「僕らはどう転んでも互いに入れますし、立花先輩の投票によって勝敗が決まりますね」
ひとまず簡単な事実確認。ここからが本番だ。
先輩を軽蔑してる訳ではないが、彼女は超初心者。東雲先輩が残れば、いくらか楽だっただろうに……。
「私、責任重大じゃん!!」
「……それは僕らも変わりゃしませんけどね」
「偽だと思う方に入れてくださいね」
「うーん、佐藤さんが死んだ次の日の言い分としては如月さんの方がありそうだなーと思うけど、わざわざ偽の人があんな難しくするのかなーって……」
立花先輩によって決まる。それは表面的に見れば、だ。
実際、勝敗が決まるポイントは真占いがどれだけ真目を取れるか。僕の一挙手一投足が村陣営の勝利にかかっているし、自分が死ぬなんて御免だ。
さて、佐藤先輩を呪ったあの夜の如月さんと城崎先輩の動きによって若干のハンデを背負っている僕は、現時点では偽目な様子。なんとか如月さんに追いつき追い越す方法はないかと考える為、参加者全員の役職を整理し始めた。
まず、僕は占い師、椎名さんは霊媒師。佐藤先輩は妖狐で、城崎先輩と如月さんが狼、立花先輩は……狩人だったらさっき言うだろうし、市民で確定していいだろう。
となると、野沢先輩と章汰、東雲先輩に市民が二人と狩人。
章汰は吊り際『狩人は霊を守って』と言っていた、あの時の彼に嘘っぽさは微塵もなかった……まだ確定ではないけれど、きっとただの市民。そして、生存欲が強かった、椎名さんが噛まれた事実から考えるに、野沢先輩が狩人っぽいが……。
ちょっと分からなくなってきた、如月さんに聞いてみよう。
「ねえ、如月さんは役職何で見てる? 全員の」
「えー? まず私が占い師で、椎名さんが霊媒。山田くんと長谷くんが狼で、野沢が狐。あとはそうだね……長谷くんが霊守ってって言って、従順な狩人……先輩には悪いけど、東雲先輩以外のお二人がありそうだなって」
「へー……まあ把握、ありがとな」
一礼してから気付いた。
……そういえば、狐の霊結果ってどうなるんだ?
僕はすぐさまタブレットを開き、同時に椎名さんの言動を振り返ってみた。
『霊媒師
処刑された人物が人狼か否かを見ることができる役職。妖狐を見た場合は妖狐と出る。』
……これだ。なんで今まで役職説明を見ていなかったのか。
そして、椎名さんの発言。「あの、野沢さん......白? でした。村人か狩人です」。彼女は役職説明を見ていて、狐は特別だという事を知っていたのではないだろうか。
「立花先輩、如月さんに入れてください」
「え、なんで?」
「如月さんは野沢先輩を狐として提出した。でも、霊媒師が狐を見たら妖狐と出る。つまり、それっぽい野沢先輩に狐を擦り付けただけ」
「じゃあさ聞くけど山田くん、椎名さんが襲われたあの夜、君視点では長谷くんが狼だから隠す為に噛んだって説が成立するけど!? それが違うっていうんだ!! それに、野沢かな? って言っただけじゃん私。長谷くんが狐の可能性だってあるにはあるんだよ!? しかもさ、城崎先輩が狼なら長谷くんを吊ろうって意見に賛成する訳ないじゃん、狼は普通真を潰したいでしょ!? ますます偽目上がるねえ!!」
突然感情的になった如月さん。確かに彼女は狐は野沢先輩と断定した訳じゃないし、僕が偽なら長谷が狐の線もあり得るのだが、感情的になって煽ってくるのはやめてほしい。
「わ、分かった。言い分は分かったから、感情的になるのは良くないし一旦落ち着こう。
確かに如月さんの言う通りだ、君目線なら章汰が狐もあり得るし、あの時椎名さんを噛む必要がある。でも、もし椎名さんが噛まれたから分からなくなった、と村を混乱させる為だとか、僕らを狼に仕立て上げる為なら? 僕はその可能性もあると思ってる」
「私はそんなやり方嫌い、正々堂々理論で勝負したい!! そっちこそ私達を狼に仕立て上げてるんでしょ!!」
落ち着こうと言っても感情的に言い放ち続ける如月さん。必死に擦り付けようとするこの姿はもはや狼にしか見えないのだが、ギブアップとでも言うように顔が死んでいる立花先輩が気付くかどうか……。
「お、落ち着いてー? ちょっと静かにしてもらえるかな。ますます分からなくなったよぉ……」
「日没が迫っています、これで5日目の話し合いを終了します。タブレットで、処刑したい人物をタップしてください」
容赦なく降りかかるこの声。いつもは意見がまとまった後に流れたのに、なんで今朝から違うのだろう。……もしかして、東雲先輩が関係あるのか?
先輩は狩人か市民だが積極的に進行っぽく振る舞った。指示されている感も否めなかった……まさかとは思うが。
「このゲームはただ暇を持て余した権力者の遊びみたいなものじゃなくて、もっと大きい存在が背後にある気がする!! ねえ立花先輩、如月さんに入れてください。僕の予想が間違っていなければ、人狼陣営が勝ったらなにか良くない事が……」
「ごめん」
「え」
立花先輩が言った。もう僕に入れた、だとか……?
「ごめん、手が勝手に。もう君に入れちゃったや……」
手が、勝手に……?
「山田晴哉が2票、如月陽が1票。本日の処刑者は山田晴哉です」
なんでこんなにもフラグが回収されるんだ。それもこんな非常事態に限って。
黒い生物二匹に連れ去られて行く。あの広間の外は、真っ黒な長い長い廊下のような通路だった。
突然生物に捕まれている感覚がなくなり、意識も遠のいていった。
遠くの方で、人狼陣営が勝利しました、そう聞こえた気がする。
目を覚ますと、見慣れた白い天井。電話の着信音が鳴り響く室内。
……紛れもなく、僕の部屋だった。
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