4日目

 分かってはいた、そうだろうとは。

 結局昨晩から一睡もできず、真っ黒なシーツはぐっしょりしている。

 城崎先輩とは同陣営で、一緒に生き残って、そして普段通りの生活に戻る。薄々気づいてはいたが、やはりその理想は叶わない。


 きっともうすぐ朝だろう、いつも遅刻しているし早く出るか、と目を不衛生であろう服で拭いながらドアノブを捻るが、......開かない。あのモーニングコールがないと開かない仕様なのか?

 やっぱ開かないなあ、と何回か開けようと試みている時、毎朝恒例のアレが鳴り始めた。


「おはようございます、。タブレットを持参して広間に集まってください。繰り返します……」


 おはようございますの途中で開いた......は? 昨晩の犠牲者は椎名さんだって......?

 狩人は何をしているんだ、野沢先輩なら仕方ないが、立花先輩や東雲先輩、特にゲーム経験者である東雲先輩なら立派な戦犯だぞ……?


「おーい、……山田くん? 来ないの?」


 アナウンスで静止していた僕に話しかけてきたのは立花先輩。上着こそ高校でよくあるジャケットではないものの、萌え袖セーターにミニスカートと今ドキ女子な先輩は、もう広間の椅子に腰かけていた。


「立花先輩おはようございます。ちょっと、アナウンスにびっくりしてしまって」

「だよね、狩人は椎名さん守れって、長谷くんの遺言だったのに。やっぱり野沢が狩人なのかな、って……」


 話し合いの時間でもないし、これ以上話す事もないのでだんまり。そのまま待っていると、如月先輩、東雲先輩、城崎先輩も此処に到着し、また話し合いが開始された。


「これから話し合いを始めます。村人陣営の方は、人狼と妖狐を注意深く探してください。人狼の方は、妖狐に気をつけながら、村人に正体がバレないよう振る舞ってください。妖狐の方は、処刑と呪殺を潜り抜け、生存してください。それでは開始」


 ……やはり沈黙。

 この状況、霊媒師が抜かれて一気に絶体絶命になった村陣営。思わず溜め息が出て、それが話し合い開始後最初の音となった。


「本当に狩人誰ですか? 誰であっても立派な利敵行為ですよ。

 ちなみに昨晩の占い、僕目線もう狐いないんで対抗の白出し先である城崎先輩を見て……やはり、黒でした」

「ちなみにこっちは立花先輩白ね。東雲先輩は狐臭全くしないし、妖狐は野沢かな? 生存欲も強かったからね。

 とりあえず、全目線もう2陣営。狩人は利敵。ここまで把握お願いします!」


 城崎先輩と東雲先輩が頷いている中、立花先輩が口を開いた。


「それはオッケーなんだけどさ、長谷くんの役職が分からない今、村陣営はどうしたらいいんだろう? 今5人で、人狼が2人いるとすると、今日村陣営の人吊ったらソッコー負けじゃない? 昨日早苗が言ってた、綻び? も聞いた感じなさそうなんだけど」

「そうなんだよね、朱音。狼が一匹吊れている私目線から見ても、今日村を吊ったら明日は3人だからキツい。椎名さんが抜かれた今、推理だけで頑張るしかない」


 どっちにしろ占いの決め打ち、まだ偽目であろう僕が吊られればその時点で村は負け。

 如月さんはまだ綻びていない、この状況で村にとって一番良い方法は……あれしかない。


「立花先輩が言っている通り、今のところ如月さんに矛盾点は見つからない。……だからこそ、彼女か城崎先輩を吊り、確実に1狼吊れている状態にする。明日になれば生存者も少なくなりますし、真偽もつけやすくなるんじゃないですか? 少々手間取りますけど、僕目線まだ2狼残ってますのでこれが最適解です」

「そうだな。俺も山田が全く狼に見えない訳ではないが、そのまま吊ろうとする程黒置きしてもいない。賛成だ」

「そうだね、もし山田くん吊りになって、君が本当の占い師ならその時点で負けちゃうからね!」

「まあ私目線それは狼側が時間稼ぎしているようにしか見えないけど! でも、民意がそうなら従うまで」

「……うん。私吊っていいよ?」


 今まで通り冷徹な東雲先輩、元気な立花先輩、敵意は感じるけれど感情的にならずに接してくれる如月さん、弱々しく頷いた城崎先輩。

 ……本当は城崎先輩を吊りたくない。でも吊らないと村陣営が負けてしまう。好きな人も大事だけれど、皆を殺してしまうなんて僕には出来ない。


 全員の意見が一致したのを感じとったのだろうか、あの声がまた聞こえた。


「日没が迫っています、これで4日目の話し合いを終了します。タブレットで、処刑したい人物をタップしてください」


 一番押したくなかった先輩の名前。この恋はきっと片想い、けれど自分で好きな人を死なせてしまう。

 君の役職は嘘をつかなければならないもの。そして僕はそれを暴く役職。仲良く生き残る事なんてできない運命。

 君の嘘と僕の恋心は、共存ができない。


「城崎早苗が4票、如月陽が1票。本日の処刑者は城崎早苗です」

「......頑張ってね」


 悲しみを含有した微笑みと共に発したそれが先輩の遺言となり、独特な処刑が開始された。何度見ても良いものではないし、慣れもしない。被害に遭っているのが好きな人だから尚更。


 ......でも、章汰と城崎先輩の吊りが無駄になるのだけは避けたい。

 城崎先輩は敢えて如月さんに票を入れた。今晩、如月さんもとい狼は確実に立花先輩か東雲先輩を噛む。

 東雲先輩はゲームの事をよく知っているようだし、村陣営が勝てる可能性は十分にある。けれど、もし立花先輩が残ったら......。


 いや、フラグを建築するメリットはない。これ以上考えないようにしよう。

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