3日目
「おはようございます、昨晩の犠牲者は佐藤栞です。タブレットを持参して広間に集まってください。繰り返します……」
もう違和感など感じない無機質な声でまぶたを開いた。
眠れた気がしない。……手が震えている。
昨日の夜、僕はこの人差し指で佐藤先輩を殺してしまったのだ。犠牲者が一人ということは、狼も佐藤先輩を餌食にしたのだろう。それか、狩人が襲撃先を守っていた____専門用語でGJが起こったか。
普通この状況は占いが狐当てられずにただただ狼が一人喰っただけだ、これで如月さんが佐藤先輩白とでも言えば、真を切られる可能性もある。
僕はまだ狼を見つけられていない、今日の処刑と襲撃、特に処刑を受けずに黒情報を提示したいところだ。村陣営にとって大切な役職であり、……悪く言えば妖狐専門の殺し屋の僕は、情報を落としていかなければならない。
僕は、山田晴哉はそういう役職を引いたのだ、仕事を全うするしかない。それはもう、オンライン対戦で分かりきっている事だ。
大丈夫、やっている事はいつもと変わらない。違うのは相手の顔が見える事と、本当に絶命する事だけ。
「現在、8名が広間に到着しています。まだ集合していない方は、2分以内に自室から出てください」
......そんな事を考えていたら遅刻してしまった。まだ若干震えている手でドアノブを捻った。
「これから話し合いを始めます。村人陣営の方は、人狼と妖狐を注意深く探してください。人狼の方は、妖狐に気をつけながら、村人に正体がバレないよう振る舞ってください。妖狐の方は、処刑と呪殺を潜り抜け、生存してください。それでは開始」
昨日と同じ言葉から話し合いが開始される。だが、参加者の顔から読み取れる感情は昨日と同じな訳がなかった。人が亡くなるというのは、そういう事なのだ。
誰も喋ろうとはしない。椎名さん、章汰、城崎先輩は怯えている様子。立花先輩はボケーっとしていて、まるで自分の家にいるかのようだ。如月さんは占い結果をいつ言おうかとタイミングを探っているっぽい。東雲先輩は余裕ある表情、占いと霊媒の結果を待っているのだろう。
よし、真目を取れるかは分からないが、この状況で喋り出すのはポイントが高い。息を目一杯吸い、口をさの形にした。
「佐藤先輩、妖狐。僕が......呪殺しました」
「は? こっちは佐藤先輩、白って出たけど」
僕が情報を落とす行為に便乗するように如月さんも偽の占い結果を口にした。
その結果は、僕が最も恐れていたパターンだ。あっさりとフラグを回収してしまった。
「あの、野沢さん......白? でした。村人か狩人です」
「へえ、あの野沢が白か。あいつはただの馬鹿か」
棘のある東雲先輩の発言が空間から消えて、また沈黙の時間が訪れた。発言する事が思い浮かばない僕は、頭の中で整理を始めた。
まず野沢先輩が処刑されて、その後僕は狐を当てにグレーの佐藤先輩を占って呪殺、狼は佐藤先輩噛みか霊媒辺りでGJ、そしてさっき如月さんは佐藤さん白……。
でも初日で吊った人が狼ではない事は黒からは分かっているはずだから、別に霊媒を噛む必要はそんなにない。そうなるとグレーを噛んだ事になって……あれ。
「あの、気付いた事あるんですけど。いいですか」
「なになに~??」
立花さんが、状況を理解していない様子だが乗ってきてくれた。より周囲からの視線も集まった。
「野沢さんは白って事が、お互いの正体を知っている狼にとっては勿論霊媒師の結果を聞かずとも分かっているんです。そして、黒が吊られた訳じゃないから霊媒を潰す必要もそれほどない。そうなると、佐藤先輩を噛んだというのが一番あり得るんです。
そして、昨晩の時点でグレーは3人。もしこの中に黒がいるなら此処わざわざ噛むか? っていう引っ掛かりがどうしても残ります。
如月先輩の白出し先である城崎先輩を噛み……如月さんをあたかも真のようにした方が僕が偽目になり、狼側が有利になる。
それをしていないって事は、……言いづらいですが、やはり如月さんと城崎先輩が狼かと」
「……まあ、対抗さんの言い分は分かったよ。それはこっちにも言える事だけどね。つまり、山田くんと長谷くん、又は私と城崎先輩が狼なのは確定かな」
「やっぱり、……占いを決め打つしかないんだろうね。村をつってしまう可能性があるし、やりたくはなかったけど……」
如月さんと城崎先輩が賛同しているのを示し、他の4人も頷いてくれた。確かにこの盤面なら、全目線囲いが発生しているのが濃厚なのだ。
やはり、占いを決め打つのは必須。となると……真目を取れるかがカギとなる。
「じゃあ……皆さんは、どちらの占いさんが、お、狼に見えますか?」
「山田は襲撃先が妖狐で、自分はそこを占ったと言っているが、それは激レアだからな。如月の方が現実味がある」
無口なものの、大事な場面ではしっかりと進行の役目を果たしてくれる椎名さんの問いかけに続き、東雲先輩が意見を言った。全体的に僕を黒目で置いている人が多い。確かに如月さんの、ただ死体占いになってしまっただけの方があり得はするが。
「あ、あの、提案があるんですが」
「楓なに? なんでもどーぞ!」
小さく手を挙げた進行役に、彼女は赤面になりながら言葉を紡いだ。
「民意は山田くん狼予想が多いようなので......とりあえず、は、長谷くんを吊りませんか?」
「え、ぼ、僕......!?」
「なんで!? 山田くんが狼だと思うなら、彼を吊るのが普通でしょ!!」
「朱音、落ち着いて。私は椎名さんの提案に賛同するよ。
私情を入れず、村目線、例えば朱音や伊吹くんから見たこの状況で話をするね。
まず、確実に山田くんと長谷くんが狼だと決まっている訳ではない。
偽っていうのはつまり結果を無理矢理作ってる訳だから、人狼の上級プレイヤーでもない私たちなら明日か明後日くらいには綻びる可能性が高い。占い......山田くんを吊ったら、もし如月さんか偽でもそれに気づかないかも。
だから、今日は長谷くんで様子を見た方が良いと思うよ」
僕目線狼の城崎先輩からの提案だが、好意関係なしにこの意見自体は霊媒師噛みが通らない限り有効だ。まあ、結局どの選択肢をとっても霊媒師がいなかったらどうしようもない為、後戻りができる方を選ぶべきだろう。小さく頷いた。
「そうなの......? 早苗が言うんならそうなのかな......」
「ち、ちゃんと筋が通っているので......反抗はしないですけど、狩人さんは絶対霊媒師を守ってください」
「狩人がいれば、だけどね。野沢ならどうしようもない。でも決め打つ以外ない」
民意が章汰吊りになった。こればかりは仕方ない、明日からは今までよりとにかく真目を取り、逆転勝ちするしかない。
「日没が迫っています、これで2日目の話し合いを終了します。タブレットで、処刑したい人物をタップしてください」
日没だ。
「......章汰、ごめんな。吊らせることになってしまって」
「怖いけどいいよ。絶対勝って」
「うん」
液晶画面に指を滑らせ、長谷と表記されているボタンをタップした。
まだ間に合う、村陣営は勝てる。
だが......勝つには城崎先輩を吊らなければいけない。私情になるが、それはとても辛い。これが別陣営になった運命なのか。
「長谷章汰が6票、城崎早苗が1票。本日の処刑者は長谷章汰です」
黒い生物が沸き、そいつらは章汰を連れ去る。涙が零れ落ちた、ここに来てから始めての涙だった。
それでも、淡々とゲームは続いていく。
「もうすぐ夜になります。各自部屋で役職を確認し、行動してください」
まだ目が変な感じだ。でも誰かを占わないといけない。
妖狐が死んでいる今、人外は如月さんと城崎先輩だけ。如月さんを占うのは......対抗占いはなんかな。城崎先輩を占うしかなさそうだ。
先輩、あなたの本当の役職はなんですか?
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