第69話 密約書状を落とす

「ヨーク! 見てみて! こんなにお宝が!」

「ルト! 俺の方も大量だぜ!」


この館は警備の目がゆるすぎる。

双子少年盗賊は調子に乗って、館内で堂々と金品を盗みまくっていた。

ポケットや大きな袋に入りきらないほどの大量の金品。


「うわー。多すぎてもう袋がパンパンだ」

「密約書状ってどこにしまったんだっけ?

 あまり多く詰めすぎると書状がぐちゃぐちゃになっちゃう」

「ルト、持ってなかった? 書状」

「ヨークが持っていたんじゃないの? 書状」

「あれ?」

「あれれ?」


ふたりは顔を青くして、自分の荷物を総点検した。

ごそごそ。ごそごそ。


「ない!」「ない!」


ほぼ同時に顔を見合わせた。

冷や汗が流れる。


「も……もしかして」

「落とした?」

「やばい」

「やばいね」


このままでは依頼主(ブラジェ)にマジギレされてしまう。

マジギレされるならまだ良い。

下手したら、なんらかの制裁を受けてしまうかもしれない。


もう金品どころではない。

こうして双子盗賊は、書状を探し回る羽目になるのだった……。


双子盗賊が血眼になって探している密約書状。

それをあっさり見つける一人の少女の姿があった。


「あー。退屈退屈。きょうはこの館に宿泊するっていうけど

 なんだかやることなくて暇だなー。

 ミスティはずっと部屋で休んでるし、兄貴は忙しいみたいだし。

 そういえばここ金持ちの館みたいだし、何か盗んじゃおうかな……。

 ん? あれはなんだろ? なにか落ちてるよ」


ステラは暇を持て余して、館を散策していた。

遊び友達のミスティはお休み、兄ノエルはリンツと会議中。

特にやることもない。


赤じゅうたんの通路を堂々と歩くステラは、床の上に落ちている書状を見つける。


「なにかの紙かな? どれどれ」


拾い上げる。


「紙幣だったらよかったのにぃ……ただの手紙っぽいし。

 でも中身は何が書いてあるんだろ。

 見ちゃおうかな? にひひ」


イタズラ好きなステラは、他者の手紙を見ることに抵抗はなかった。


「どれどれ。何が書いてあんのー♪ ラブレターとか?

 暑苦しい愛の告白とかあったら『きっしょ』とか言ってやろっ」


ステラは性格が悪かった。


「……ん?」


なにやら難しそうな字がいっぱい並び、すぐには理解不能な内容だった。


「契約書……かな? 下に名前が書いてある。

 パヴェール? ここの館の主の名前じゃん」


ステラは、文面をもっとじっくりと読んでみる。


「帝国……どくせんけいやく? ミスティ王女をつかまえ……え?

 なにこれ……やば……」


ステラは音読を止め、思わず口をおさえる。

そして周りをきょろきょろと警戒する。誰もいない。


これって、もしかしてやばい内容の契約書?

パヴェールの名前があるとか、ミスティを捕まえるとか、帝国と契約しているとか。

ステラは一気に血の気が引いた。


すぐにミスティと兄貴(ノエル)に報告しないと!

ステラは駆け出した。密約書状をにぎりしめながら。

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