第68話 怠惰な門番

双子盗賊ヨークとルトは、密約書状を持ったまま、パヴェールの館の門前まで来た。


時間は夕方。戦闘が始まるであろう夜の時間には、まだ早かった。

侵入できそうなルートはだいたい調べ終わっていて、退屈をもてあましていた。


ヨークとルトは、侵入ルートを調べるなかで警備がゆるいことに気づき、

「もうこのまま侵入しようかな」と考え始め、こそこそと話し出す。


「まだ戦闘は始まってないっぽいけど、侵入していろいろ盗んじゃおうかな、もう。

 ここの警備兵たち、めちゃくちゃ警備がゆるいね。

 なんか疲れているというか、やる気かんじられないというか」


「警備兵の雇い主がバカすぎて、やる気になれないんじゃない?

 よくわかんないけどさ……」


門番らしき人がいるが、あくびをするばかりで、あまりやる気が感じられない。


双子盗賊は、門番の様子を見る。

槍と鎧を身に着けたその門番は、壁によりかかって無気力な様子だ。


しばらく経つと、門番交代の時間なのか、別の門番がやってくる。

門番たちは会話を始めた。


「ザルツ。門番交代の時間だ。……またあくびしていたのか?

 あくびばかりしてると、パヴェール様やサバラーン兵長に

 何を言われるかわからないぞ」


入れ替わりでやってきた門番が、ザルツに苦言を呈する。


「ふぁー。あくびも止まらねえぜ。こんな仕事よぉ。

 賃金は安いし、仕事は多いし、拘束時間は長いし……」


「ザルツ。滅多なことを言うな。

 パヴェール様や、サバラーン兵長に聞かれたらまずいぞ」


「わかってるって。

 そういえば今日、何やら身分の高そうな人が、騎士みたいな護衛を連れて、

 この館に入っていったな。

 いいなぁ。ああいう人たちは不自由のない生活を送っているんだろうな」


「その人たちなら館の中でも見かけたぞ。

 どうやら別の国から来たっぽいが、あまり詳細はわからないな。 

 俺たちに何も知らせはないし、なんだかなぁって感じだ」


「だいたい、俺たちに何の情報も知らせないくせに、

 いろいろ注文つけてくるんだから困るよなぁ……」


門番たちが長々と愚痴を重ねている間に、

ヨークとルトはこっそりと侵入するのだった。


侵入後、ヨークとルトは館の小間使いを装い、警備兵の目をごまかしていった。


「しめしめ。うまくいっている。この館の金品は全部俺たちのものだ」


ヨークとルトは心が高揚し、ウキウキとしていた。


しかし、ウキウキすると人間は誰しもミスをしがちになる。

双子盗賊も例外ではない。

「密約書状を落とす」という大きなミスをしでかすのだった。

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