第54話 槍より長き

リンツとザッハは、本陣へ戻り、伯爵邸の状況を報告した。


「報告します。状況は、こちらに不利です。

 突然の奇襲に、警備兵は浮足立っており、押されています。

 おそらく、被害はかなり甚大なものと想定されます」


リンツの報告に、一同はどよめきだった。


「あれだけの警備兵がいるのに……押されているのですか!?」


クリムは驚きを隠せない様子だった。


「義賊団は思ったより、戦い慣れしているようです。

 特に、槍使いのザムは、粗暴な性格ながら、かなりの手練れです。

 相当数の警備兵や家人を殺傷しております。

 ……危険な相手です。

 ここの人間をすべて殺そうとしているかのようでした。

 それに、義賊団の人間は、ザムの影響を受け、殺気立っています」


「逆に言えば、そのザムとかいう奴さえどうにかすれば、

 義賊団を制圧できるかもしれない、ということだな?」


俺は、リンツの顔を見て、そう言った。


「……ええ。そういう見方もできるでしょう。

 ノエル殿。

 まさか、ザムを倒しにいくおつもりですか?」


「ああ。奴さえ倒せば、どうにかなるはずだからな。

 ここでじっと待っているよりは、マシだと思う。

 それに……このままでは、モンドアー伯爵の命も危ういだろう」


「……」


リンツはしばらく、俺の顔をじっと見る。

俺も無言で待つ。


リンツは一体何を考えているのだろう。

ザムの討伐は、俺もダメもとで言ってみただけだが、

やはり拒否されてしまうだろうか。


「いいでしょう。

 私は副団長。ノエル団長の指示には、従います。

 攻めの一手を打つということですね。協力します」


「ほっ……拒否されるかと思ったよ」


「ですが、全員でザムを倒しにいくわけにはいきません。

 ミスティ様の護衛は必要です。

 ノエル殿とリッター君、クリム殿はここに残ってくれませんか。

 ザムは槍を持っており、剣や斧では不利です。

 ノエル殿の武器も、槍に比べ、リーチが短い。

 ザムを倒すには不向きです」


「それもそうだな。

 槍はリーチが長いから、リーチの短い剣や斧では不利だ」


「お察しのとおりです。

 ……ところで、槍より、リーチの長い武器をご存じですか?

 それがあれば、有利に戦えます」


「それは……今、リンツが持っているじゃないか」


「ご名答です」


リンツは、弓を持ち、それをはっきりと見せた。


「ザムの討伐は、私にお任せを」


目の前の「冷静」な弓騎士は、珍しく、笑みを浮かべていた。

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