第55話 宴の終わり

一方、ザムたちは、さんざん伯爵邸を荒らしまわったあと、

離れにある、ミスティたちのいる宿泊施設に目をつけていた。


「あの建物は、まだ手をつけていないな?

 よし、余裕があるから、ついでにあの建物からも何か奪ってこい。

 俺が先頭を行く。どんどんつぶしてしまえ」


ザムは、手下数名を連れて、宿泊施設のある建物へ向かう。

手下は、宿泊施設の窓から、明かりが漏れていることに気づく。


「ザムの兄貴、あの建物には、人の気配がするようです」

「気にするこたねぇ、どうせ弱っちい警備兵とかだろう。

 徹底的につぶしてしまえ」


「それはどうかな」


勢いづくザムたちを止めるように、声が響き渡る。


「あ? なんだお前……」


「さっき会っただろう」


槍騎士ザッハが槍を構え、槍先をザムにつきつける。


「ああ、お前……さっき俺を邪魔した奴か。

 さっきはよくも俺の楽しみを邪魔してくれたな。

 今度は容赦しないぜ。手下もいっぱいいるからよ」


ザムの背後には、何人かの男たちが、手に剣を構えている。


「手下を連れてきても無駄さ。

 僕たちにも味方はいるんだからね」


ザッハの横に、シャロが槍を構えながら現れる。


「は? 数はこっちが多い! やっちまえ!」


ザムが号令をかけると、手下たちは一斉に襲い掛かってきた。


たしかにザムたちの方が人数は多く、有利だった。

が、ザッハとシャロの槍さばきは、手下たちを圧倒した。

長い槍は、手下の剣を寄せ付けず、さらに、反撃で、手下どもを貫いて戦闘不能へと陥らせていった。


次々と倒れていく手下たちを見て、ザムは焦り、憤った。

こんなに強い奴らだなんて聞いてないぞ……!

退き、撤退するという選択肢もあったが、二度も敵前逃亡するのは、

自分のプライドを傷つける。

それに、ザムは、自分の槍の腕前に自信があった。


俺がカタをつけてやる!

ザムは、槍を振り回し、突進した。


「手下どもは簡単にやられたが、俺はそうはいかんぞ!」


ザムは、槍を雨のように何度も突き出した。

その速さは、ザッハとシャロの2人を後退させてしまうほどだった。


顔の横を、何度も何度も、ザムの槍がかすめていった。

じょじょに2人とも、小さな傷が増えていく。

ザムは、なおも前進をやめない。

ザッハとシャロは押されまくり、その表情はだんだんと曇っていった。


どうだ! 俺は、二人相手でもひるまないし、十分やれる。このままいけば俺の勝利だ。

ザムは、そう思っていた。

そして、早すぎる勝利宣言を言い放つ。


「俺の勝ちだ!」


渾身の力をこめて、槍を前に突き出す!

だが、その槍が、届くことは無かった。


「ぐあぁっ!」


ザムに1本の矢が突き刺さった。

ひるんだザムは、後退し、悲鳴をあげる。


「なんだ、この矢は!? くそが!」


ザムは痛みをこらえ、次の矢が飛んでこないか、周辺を警戒する。


「あなたは忘れましたか? 私がいるということを……」


リンツが、物陰の中から、すっと現れた。まるで幽霊かのように。


「て、てめぇは、さっき部屋で会った……!

 隠れてやがったんだな!」


「さあ、これで終わりです」


リンツは、弓を引き絞り、とどめの矢を放とうとする。


「このままやられてたまるかよ! 道連れだぁ!」


ザムは、最後の力を使って、槍を力強く投げつけた。

その凶槍は、リンツの胴体に向けられ、凄まじい勢いで飛んでいく。


「リンツさん!」


シャロの悲鳴が響く。


「はぁ!」


リンツは、ひるむことなく、矢を放ち、そして、瞬時に槍をかわした。


「ぐおおおおお!」


ザムは断末魔の悲鳴をあげると、その場に倒れ、動かなくなった。

ザムの体には、2本の矢が突き刺さり、2本目の矢が致命傷を負わせた。


「リーダーのザムは仕留めました。

 これで義賊団も逃げていくでしょう」


「ひやっとしましたよ……リンツさん。

 まったく、無茶するんだから」


ザッハは、構えていた槍を降ろし、ほっと胸をなでおろす。


「ふっ。計算済みです」


リンツは悠々とした表情で、弓を降ろした。


「敵が逃げていくわ!」


シャロの眼前から、次々と、ザムの手下が逃げかえっていく様子が見えた。

蜘蛛の子を散らすように逃げて、ついに誰もいなくなった。


「これで伯爵邸も沈静化しますね。ミスティ公女も無事だし」


「ザッハ君。まだまだ油断はできませんよ」


「まだ何か?」


「モンドアー伯爵ですよ。命を狙われています」


「ああ……そうでしたね」


「とにかく、伯爵の安否を確認しましょう」


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