第48話 潜むもの

モンドアー伯爵邸の倉庫。

そこでは、1名の警備兵が見回りをしていた。

倉庫には、無数の木箱が、軍隊のように整列し、群衆のように混雑していた。

これらの木箱には、伯爵の管理する商品が多数収められており、

商品が奪われないよう、定期的に巡回を行うことにしていた。

ある夜、警備隊長は、警備兵の様子を確認しに、倉庫に訪れる。


「警備、ご苦労。調子はどうだ」


「はい、警備隊長殿。順調であります」


「ん? 今日は、木箱がやけに多いな。

 いつもはこんなに多かったか? 不自然だな」


「今日は、商品の納入が多かったですね。

 突然、大きな取引があったらしくて……」


「そうか。大事な商品が奪われないよう、しっかり警備したまえ」


「はっ!」


警備隊長は、倉庫内の木箱の多さを不自然に感じていた。

いつもの2倍近くは量があるように見えたからだ。

大きな取引があれば、伯爵から事前通達があるはずだが、それもなかった。

あとで、伯爵に確認しようと思い、警備隊長は、倉庫をあとにした。


このとき、警備隊長も警備兵も、気づいていなかった。

木箱の中に、商品など存在しないことを。


そして、木箱が、音もなく、揺れた。

箱のフタが、二枚貝のように、ゆっくりと開き、そこから、人間の手がにょきりと現れて……。


時を同じくして、ノエルたちは、夕食も終えて、夜の時間を過ごしていた。

もう寝る者もいれば、うるさく語らい合う者もいて、さまざまだった。


ノエルは、明日の行軍予定を確認するため、

リンツやクリムと一緒に会議をしていた。

その会議も、30分程度で終わり、雑談が始まる。


「そういえば、ノエルさん。聞きましたか?

 この館には、大きな倉庫があるそうですよ」


クリムが、俺にそう話しかけてきた。


「大きな倉庫?」


「ええ。モンドアー伯爵は、貴族でもあると同時に、商人です。

 かなりやり手の。自分の館に大きな倉庫を作り、

 そこに商品を管理しているみたいです」


「そういえば、館の隣に、大きな建物があった気がするな」


「伯爵の大倉庫、とか言われてて、観光名所でもありますよ。

 もしよければこれから皆さんで見学しませんか?」


「観光名所とはいえ、夜だとさすがに閉まってるだろう。

 それに……許可とか大丈夫なのか」


「うーん。どうですかね? リンツさん。

 伯爵からは自由に見て回ってよいと言われてますよね?」


「そこは心配ありません。

 許可もとれてますし、大倉庫を見るなら、今でも結構です。

 ……あ、でも、ステラさんが行くのは止めたほうがいいかもしれませんね」


俺の妹ステラは、手癖が悪く、モノを盗む。

リンツが心配するのも当たり前だと思った。


「そうだな……。ミスティもむやみに出歩かないほうがいいし、

 シャロと騎士たちは、今ミスティの周辺を警備している。

 俺たちだけでまずは行ってみるか」


こうして、俺とクリムとリンツは、倉庫へと足を運んだ。

俺たちは、このとき、倉庫を見て、館に戻るだけのつもりだった……。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る