第47話 被差別の者

「ミスティ、さっきのロシェとかいう弓使いの話だが……」


俺は、先ほどの面会でのミスティの反応が気になり、ロシェのことを聞いてみた。

直後、ミスティの顔は、暗く沈むのがわかる。

聞いてはいけないことだったのだろうか。


「……その顔は、あまり聞いてほしくなさそうな感じだな」


「ノエルさん。ロシェのことを知りたいですか?

 ……後悔しても知りませんよ」


「話したくないなら、話さなくてもいい。

 ただ、これから出会う敵になるかもしれないし、

 できることなら知っておこうと思ってな。

 俺は、ミスティを護衛する傭兵団長だし」


「……お話ししましょう」


俺は、ミスティの話を黙って聞くことにした。


「ロシェは、もとは、シュクレアの国民です」


「!」


「シュクレアの国民だった彼が、なぜ、弓使いの傭兵として、

 ベーク領で活動しているのか……。

 その理由は、差別によるものです」


「差別……」


「そうです。ロシェは、魔法が使えませんでした。

 シュクレアは魔法の国。

 魔法が使えぬ者は、障碍者扱いであり、厄介者として遠ざけられます」


「……」


「それでもロシェは、めげずに努力し、弓の腕を鍛えました。

 そして、シュクレア国でも有名な弓使いとなりました。

 私がロシェを知っているのも、彼が有名な弓使いだからです」


「その話だけ聞くと、報われていそうに見えるな」


「いいえ。ロシェは、報われませんでした。

 昔からずっと続く差別の空気は、そう簡単に変えられるものではありません」


「そうか……」


「根強い差別の空気に耐えられなくなったロシェは、

 シュクレア国を出ていきました。

 その後の行方は知られていなかったのですが……。

 噂によると、傭兵として活躍しているとか、

 暗殺者として犯罪を重ねているとか、いろいろな話があります」


「それで、今回、モンドアー伯爵の話で、

 義賊団に所属していることがわかったんだな」


「はい。まさかベーク領で義賊団として活躍しているとは、

 私も思わなかったのですが……」


「そのうち、ロシェに会えるかもしれないな。

 もっとも、会わないほうがいいのかもしれないが」


「複雑な気持ちです。

 ロシェは、シュクレアの民を恨んでいると思います。

 私も、シュクレアの民。

 もしロシェに会ってしまえば、殺されることもあるでしょう。

 彼の矢は、百発百中。狙われたらおしまいです」


「そんなにやばい奴なのか」

 

「ロシェの弓の腕は、尋常ではありません。

 たった三本の矢で、シュクレア国内の盗賊団を壊滅させました。

 何百メートルも離れた、屋内に隠れる首領・副首領を射抜いたのです。

 ほんのわずかな、小さな隙間を、矢がくぐり抜けて……」


「とんでもない男だな」


「はい。できれば敵対したくありません。

 仲間になってくれれば心強いと思います。

 私が、説得できればいいのですが」


「……あまり無茶なことはしないほうがいい。

 説得しに近づいたら、射抜かれるだろうな」


「ノエルさん。

 もしロシェが現れたら、私を守りながら、彼に近づきましょう。

 その後、私が説得します」


「いやいや、結構無茶なこと言っているぞ…」


百発百中のヒットマンに近づこうというのか。

俺は、ミスティの意外な大胆さにあきれるのだった。


俺とミスティが、ロシェについて会話をしていると、リンツがやってきて、

夕食の時間だと告げた。


「ミスティ様、ノエルさん。ここにいましたか。

 そろそろ、夕食の時間です。お集まりください」


そうか。そろそろ夕食の時間か……。

おいしいものがあるといいな。

俺は今、のんびりとした気分になっていた。


その夜、大変なことが起きるとも知らずに……。

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