第49話 侵入者

俺たちは、館の廊下を抜け、倉庫の付近へと足を延ばした。

突然、俺とリンツは、足を止めた。

クリムが不思議そうに、俺たちを見る。


「どうしたんですか? ノエルさん、リンツさん。

 倉庫はもうすぐですよ」


「クリム。これ以上は倉庫に近づくな。

 ……ここから先は、血の匂いがする」


俺の言葉にクリムが驚愕の表情を見せた。


「は? 何を……言っているんです」


「言葉どおりの意味だ。クリム。下がれ」


倉庫の方向から、複数の人影がぞろぞろと現れる。

警備兵……には見えない。

警備兵はもっと、ちゃんとした制服や鎧をつけている。


それに、普通の警備兵なら、その手に、「血のついた槍」を持っているはずがない。


幸いにも、奴らは、まだ俺たちに気づいていない。


「隠れろ」


俺は小さな声で、そうつぶやき、クリムとリンツを物陰に退避させる。


「……明らかに警備兵ではありませんね。

 あの粗暴な見た目は、強盗か何かかもしれません」


リンツは冷静に相手の身なりを分析する。

たしかに、粗暴な顔つきや見た目、手に持っている武器を見ても、

品のいい警備兵とは異なる。ましてや一般人であるはずがない。


「そうだな。奴らをやり過ごしたあと、伯爵たちに注意を促さなければ」


俺たちは声をひそめて、相手の様子を伺った。

そして、誰かが、話し始めた。男の声だ。


「予定どおり、木箱にまぎれて、みんな侵入できたな。

 俺は、この矢で伯爵を狙う。

 ザム。あとはお前に指揮を任せる。

 あまり乱暴なことはするな。ただ金品を奪ってくるだけでいい」


「おいおい。また金品を奪うだけのぬるい仕事かよ。

 勘弁してくれ。俺は暴れてぇんだよ。

 商人や警備兵どもの一人や二人は倒さねえと気が済まない。

 俺のこの槍は、飾りじゃねぇんだぜ?」


「おさえろ、ザム!

 お前は、腕っぷしは強いが、乱暴すぎる。

 さっきの警備兵も、本来なら殺す必要はなかった。

 俺たちは、義賊団だ。

 殺し屋集団ではない。それを忘れるなよ」


「ちっ。わかったよ、ロシェ。

 金品を奪うだけでいいんだろ。

 俺たちは義賊なんだからなぁ……。

 まあ、抵抗してくる奴をぶっ殺しちまうくらいなら、

 あるかもしれないなぁ? 正当防衛だぜ」


「ザム。金品を奪うことだけに集中しろ。

 とにかく、俺は、伯爵を殺る。

 俺たちが義賊団だという意識を忘れるな」


ロシェ!?

まさか、ミスティやモンドアー伯爵の言っていた、弓の使い手のことか?

こんなところで会えるとは……。


それに、伯爵を矢で狙うとか、言ってたよな?

まずい。ロシェは、伯爵を射殺するつもりだ。

早く、伯爵にこのことをお伝えせねば……。


俺たちは、義賊団が過ぎ去るのを待ち、気配がなくなったことを確認すると、

すぐさま臨時に作戦会議を開いた。


「ノエル殿。

 義賊団の狙いは、伯爵の命と、館の金品です。

 私は急ぎ、伯爵と警備隊長へこのことを伝えます。

 ノエル殿は、ミスティ公女のもとへ戻り、公女の身を守ってください。

 公女の身の安全が最優先です。

 そして、ヘーゼルたちにも指示を出してください。

 クリム殿は、ノエル殿のそばについて、軍師として助言を頼みます」


俺は、リンツの立てた作戦に、異論はなかった。

クリムを伴い、すぐにミスティ公女のいる部屋へ足を向ける。


義賊団の中にも、「ザム」のような粗暴な奴がいる。

そんな粗暴な奴が、館を荒らしまわるのだ。

ミスティ公女が乱暴な目にあうかもしれない。

一刻も早く、急がねば……。

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