第32話 汚名

俺たちは、ついに、山賊の城の中心部に足を踏み入れた。

警備は手薄く、あっさりとしたものだった。


何人かの山賊を倒したあと、ガデニアのいる広間にたどりついた。


山賊の首領ガデニアと対面する。

ガデニアは、全身を大きなマントで覆い、こちらをにらみつけている。


「お前がガデニアだな」


ヘーゼルは剣をかまえ、ガデニアを名指す。


「……」


ガデニアは無言を貫く。


「我々は、オーラン領騎士団を中心とした、山賊討伐隊。

 きょうがお前たちの命日だ。

 おとなしく連行されるというなら、話は別だ」


「ヘーゼルさん。待ってください。

 ガデニアの背後にいる人たちは……」


「なんだ? クリム。

 ガデニアの背後にだと……?」


ガデニアの大柄な体で隠れて見えづらかったが、

ガデニアの背後には、女性や子供の姿が、複数名、見え隠れしていた。


「!」


「うしろにいる女子供は、何者か。答えよ」


ヘーゼルは、ガデニアにつきつけるが、ガデニアの重い口はなかなか開かない。

……どうして、女子供が山賊の城にいるのだろう?

俺は嫌な予感がしていた。そして、過去のトラウマが少しずつ、煮詰まっていく。


「逆に、お前たちに問いたい」


ガデニアの口が動いた。


「お前らは、山賊山賊とさっきからうるさく言っているが、

 俺たちは自分たちのことを山賊と考えていない」


「どういうことだ」


「その昔、オーラン領が出来上がる前は、この土地は、

 地方領主同士で戦争を繰り返していた」


「それがどうしたというのだ」


「俺の父親も、昔は、地方領主の一人だった。

 だが、戦争に敗れ、この山に逃げてきた。

 そして、山の城を築いて、再起をはかった。 

 ……なかなかうまくはいかず、このざまだ」


「ガデニア……お前は、かつての地方領主の末裔だというのか」


「そうだ」


「信じられない」


「信じるかどうかは、お前次第だ。

 だが山賊呼ばわりされる覚えはない。

 俺にとって、汚名だ」


「何を言う。村から金品を奪っていたではないか」


「税金のようなものだ。

 村がなかなか言うことを聞いてくれなかったからな。

 強制的に徴収したのだよ」


「税金? 意味がわからないな」


「まあ聞け。

 昔、俺の父親が存命のころ、ふもとの村……。

 つまり、お前たちが住んでいた村は、俺たちと仲が良かったんだぜ。

 今じゃ信じられない話だろうがな」


「どういうことだ」


「今のオーラン領主の支配が及んでいなかったのさ。

 領主同士の戦争に勝ったオーラン領主は、

 当初貧乏にあえぎ、この山の付近まで支配できなかった。

 そして、ならず者や盗賊が跋扈し、村は危機に陥ったが、

 俺たちが村を守っていた。お金を払ってもらう約束でな」


「つまり、”ショバ代”ということか」


「そういう言い方もできるな。

 だが、時は移り変わり、オーラン領主も裕福になり、

 支配地域をしっかり守ることができるようになった。

 とうとう、俺たちはお役御免になり、村からショバ代を収めてもらえなくなった」


「……それで、村との関係が険悪になり、金品を巻き上げるようになったと。

 とても擁護できる話ではないな」


「それは、お前がオーラン領の人間だから、そう言えるのだ。

 この土地は、本来なら、俺たちのものだ。

 だが俺の父親は、オーラン領主に、不当に戦争を仕掛けられ、

 負けて、山まで逃げてきた。そして再起もままならず、死に果てた。

 俺がその遺志を継ぎ、山の城の主として、お前たちを粛清してくれよう」


ガデニアはマントを脱いだ。


「その剣で、俺のこの装甲を貫いてみせよ。

 どうせ無理だろうがな」


ガデニアは、分厚い鎧を身にまとっていた。

鎧は光沢をまとい、未使用であるかのような光を放っている。


「なんだ……その鎧は!」


「俺の最終兵器さ。

 この分厚い装甲では、傷一つもつけられんよ。

 そんな細い剣ではな!」


俺にひとつの疑念が浮かぶ。


山賊という身分の者が、なぜあんな綺麗な鎧を身にまとっているのだろうか。

どこから手に入れたのだろうか……。

村から巻き上げた金品の中に、あのような立派な鎧はあるはずがない。


ここら辺の山賊は、帝国の息がかかっているという噂があるが、

やはり、帝国から入手したものなのだろうか。


俺の疑念には誰も答えない。

すでに戦闘が始まっていたからだ。


「お前ら! 敵が来たぞ! やっちまえ!」


「へい!」「おう!」


ガデニアの命令により、どこかに潜んでいた、鎧山賊2名が現れた。

両人とも、ガデニア同様、立派な重装甲鎧を身に着けている。

ちょっとやそっとの攻撃では、傷一つつかないだろう。


「皆さん! 後ろに下がってください!

 あの分厚い鎧は、剣や槍では、ダメージを与えられません。

 せめて斧や棍棒があれば、強烈な一撃でダメージを与えられるかもしれませんが……。棍棒を持っているのは、ノエルさんだけ。

 ノエルさんだけでは3人相手は無理です」


クリムが、俺たちに、そう指示する。

そうか。やはり、俺の棍棒以外では、ダメージを与えられないのだな。

シャロやヘーゼルは、静かにうなずき、じりじりと後退していく。


「さっきまでの威勢はどうした! 下がるだけか!」


ガデニアが挑発してくる。

そんな挑発に乗るわけにはいかない。

俺たちは冷静に後退していった。


もちろん、ずっと後退しているわけにもいかない。

どこかで反転攻勢をかけるか、避難しないと、負ける。


クリムは何も発さない。後退指示のままだ。

ゆえに、今は、後退し続けることしかできない……。


だが、ついに退路を断たれてしまった。


俺たちの背後に、大勢の山賊が現れたからだ。

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