第31話 正門と裏門

ヌストルテの部隊を振り切って、俺たち遊撃隊は、城の目の前までたどりついた。

俺たちは、物陰に隠れながら、城の様子をうかがう。


逃げることで、けっこう体力を消耗してしまった気がする。

傭兵を辞めてしばらく経つせいか、体力不足を感じた。


「はぁはぁ……」


思わず息が上がる。


「大丈夫か、これからが本番だぞ」


ヘーゼルは平然としている。

現役騎士の体力はさすがのものである。


「兄貴、もう疲れたの? たるんでるー」


うるさい。からかうな、ステラ!

怒鳴りたくても、声を出すだけで体力を使うので、苦笑を浮かべるだけ。


「ちょっと訓練不足なだけだ」

「それを『たるんでる』って言うんだよ。ずっと家に引きこもってるから」


悲しいが反論できない。


「さあ、敵の城は目の前です。

 首領を倒し、制圧してしまいましょう」


クリムがそう呼びかける。


「見たところ、そこまで敵の数は多くないように見えるな…。

 隠れていなければの話だが」


ヘーゼルは冷静に分析する。


城は、恐ろしいほど静まり返っている。

ヌストルテたちが率いる部隊に、ほとんと人員を割いてしまっているのか、

まるで人がいない。

ヘーゼルの言う通り、どこかに隠れている可能性もある。

気は抜けない。


「……こうしている時間ももったいないわね。

 行きましょう」


シャロは、しびれを切らし、みんなに入城を促した。

俺たち遊撃隊は、ついに、城に足を踏み入れる。

城の門には、何人かの山賊がいた。


山賊どもは、俺たちを見るや否や、

「敵だ!」と叫び、こちらに襲い掛かってきた。

数は多くない。

俺たちだけでも十分相手にできる。


と、そのとき、弓矢が俺たちに降り注いだ。


「弓兵がいるぞ!」


しゅしゅしゅ!

と、弓矢の雨が降り注ぐ。


上を見上げると、弓を持った山賊が何人かいた。

まずい。

俺たちは物陰に避難する。


正面突破はさせてくれないらしい。


「こちらだって、弓を使える人はいるんだ。

 フレッド! ハンナ! 頼む!」


ヘーゼルは、うしろに控えている自警団のフレッドとハンナに声をかけた。

二人とも弓を扱える。


「わかっているさ。敵のほうが少し多いかな…」


フレッドは、弓をかまえて、山賊たちに狙いを定める。


しばらく、山賊と俺たちとで、弓を撃ちあう。

お互いの命中率が悪いのか、なかなか勝負はつかない。

このままでは弓矢が尽きてしまう。


そのうち、城の内部から出てきたであろう、山賊たちがぞろぞろと押し寄せてくる。

やばい。想定以上に数が多い。

弓を撃ちあっている場合ではない。前に出なければやられる。

ヘーゼルとシャロ、そして俺は、各々の武器を取り出し、応戦する。


シャロの長い槍で、敵をけん制しつつ、俺とヘーゼルが斬りこむ。

その勢いに、山賊たちは怖気づいたようで、少しずつ速度が遅くなる。

だが、敵の数は、俺たちより多い。いずれ押されてしまうだろう。


正門突破は想像以上に厳しいようだ。

そうした苦戦に、ヘーゼルもしびれを切らした。

ヘーゼルは、クリムとステラに助言を頼む。


「クリム! ステラ! 城の正門は厳しい。

 抜け道か何かないか」


「城の正門だけが出入り口ではありません。

 狭いですが、いくつか抜け道はありますよ。

 ステラさんからもそう聞いています」


「よし、ステラ! 案内を頼む」


俺たちは、正門から撤退した。

……ふりをして、裏の出入り口を探し始めた。


山賊たちは追ってこない。深追いしないよう注意されているのだろう。


城の壁伝いを、敵に見つからないように、ゆっくり歩く。

そして、見つけた。小さな出入口を。

木戸で閉じられたその場所は、とても狭く、1人しか通り抜けられないであろう。


木戸の向こうに人がいる気配もない。

俺たちは、ここを突破することに決めた。


「この道を行く。ここなら敵はいなさそうだ。

 楽に侵入できるだろう」


ヘーゼルはそう言いながら、先陣を切る。

鍵のかかった木戸を破壊し、剣を抜きながら。

俺とシャロもあとに続く。


「誰もいないな……。城の中心部を目指すぞ。

 そこに、首領はいるはずだ。油断をするな」


敵の気配はない。だが安心してもいられない。

どこに潜んでいるかわからないし、正門から戻ってくるかもしれない。


「!」


誰かが、いた。

さっと隠れた。

人影しかわからない。

追いかける。

姿はない。


「しまった、見つかったか……」


ヘーゼルは舌打ちする。


「すぐに逃げるような奴だ。

 どうせ襲ってきはしないさ。

 ……城の中心部に急ごう」


俺は、ヘーゼルにそう言った。


「そうだな」


ヘーゼルも気にしていないようだった。


俺はこのとき、気づいてなかった。

先ほど隠れた人影は、ただの子供であることを……。

もし今気づいていたら、俺は城の中心部まで行かなかったかもしれない。

トラウマが再発しかねないからだ。

幸か不幸か、俺は子供に気づかず、城の中心部へ足を進めた。

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