第29話 心の友

「ノエル! ノエル!」


俺を呼ぶ声が聞こえる。

眠いので、適当に返事をする。


「ノエル!」


うるさいな…。

とても眠いんだ。起こさないでくれ。


「起きなさい! 今日は大事な日でしょ!」


大事な日? なんだっけ。


「きょうは……山賊を退治しに行く日よ!」


はっ。そうだった。気づかなかった。

俺が目を開けると、そこには、少し怒った様子のシャロが立っていた。


「準備を早くしないと、みんなに怒られるんだから。

 ほら、早くこれとこれを装備して、出かけるのよ」


シャロは、怒りながら、俺の装備品を集めてきたらしく、

早く装備するよう促す。


「わかったよ。シャロも一緒に来るんだろう?」


「当たり前でしょ」


シャロは、どこからか、自分の装備(槍)を取り出してきて、

誇らしげに、俺に見せつける。


「あれ? 俺の魔剣がないな……」


「だって、ノエル、魔剣使えないんでしょ。

 持っていっても、荷物になるだけだし……。

 棍棒で十分なんじゃないの?」


「お守りだ」


「は?」


「あの魔剣は、今は使えないけど、

 お守りとして持っていきたい」


「お守りって……。

 慣れない山の中を歩くのに、

 いらないものは、もっていかないほうがいいと思うけど」


「あれがないと落ち着かない」


「はぁ……。勝手にすれば」


シャロは、あきれた様子で、俺を見る。


たしかに俺は魔剣を使うことができなくなった。

だが、俺にとって、魔剣は大事な相棒。

使えなくても、一緒に連れていきたい。


俺は、右手に棍棒、腰に魔剣を装備すると、家の外に出た。


すでに、家の外には、俺を待っている人が何人もいた。


見習い軍師クリム。

盗賊妹ステラ。

騎士ヘーゼル。

槍使いのシャロ。

そして元魔剣使いの俺。


「みんな、待たせてすまなかった。

 出発しよう……」


俺はみんなに少し謝る。


「アマレート様たちがお待ちかねだ。

 さあ、行こうか。俺についてきてくれ」


ヘーゼルが俺たちを案内する。


「そういえばミスティはどうした?

 ステラ。何か知らないか?」


ミスティは、山賊から助けたあと、

俺の自宅に住まわせ、ステラと一緒に生活していたが、

きょうは姿を見かけない。


ステラは、不機嫌そうな表情を見せた。


「騎士たちに連れていかれちゃったよ。

 安全なところにいさせるんだって。

 嫌になっちゃうよ」


ステラは口を尖らせた。無理もない。

ずっとミスティと一緒だったステラにとっては、

大事なぬいぐるみがとられたような感覚なのだろう。


「済まないな。盗賊からも不審者からも狙われているようだから

 騎士たちに保護させてもらった」


ヘーゼルが、ステラに弁解する。

ステラは無言のまま、ヘーゼルの声には答えない。

本格的に嫌われてしまったようだ。気まずい空気が流れる。


「ミスティさんがいなくて寂しいなら、私が代わりになりますよ~。

 ほらほらほら~」


「だっ、抱きつくなぁ!」


クリムが冗談っぽく(だが半ば本気で)、ステラに抱き着く。

彼女はぐりぐりと抱き着きながら、ステラを圧倒していく。

ステラは嫌そうだった。苦笑する周囲。


さて、そんな会話をしているうちに、

アマレート騎士団長たちの陣営にたどり着いた。

陣営と言っても、自警団の詰め所横の広場を使っているだけだが…。


アマレートの背後には、大勢の騎士たちがいる。

屈強な鎧に身を包み、とても強そうだ。


「アマレート様。ノエルたちを連れてきました」


ヘーゼルが、女性の騎士に声をかけている。


あれがアマレート騎士団長か。

落ち着いた雰囲気の大人の女性、といったところか。

とても剣をふるって戦うようには見えないが、

人は見た目にはよらないのだろう。


「そうか。ご苦労だった」


アマレートは、俺たちを見て、言葉を続ける。


「ノエル殿。私がアマレートだ。

 このたびは、協力を申し出ていただき、感謝する」


「いえ……」


俺は返事するための言葉をもたず、ただそっけない挨拶をする。


「さて、きょうの山賊退治作戦だが……。

 詳しくは、そこの軍師見習いちゃんに話してもらおうか」


アマレートは、クリムに視線を向ける。


「あっ。はい……」


クリムは、少々気の抜けた返事をする。

騎士たちを目の前にして、緊張しているのだろうか。


「山賊の城の場所は、だいたいつかめています。

 なので、私とステラさんが先導します。

 続いて、山の歩き方に慣れている、自警団の皆さんが後に続きます。

 騎士団の皆様は、最後尾のほうです。

 一部の騎士たちは、ミスティさんの護衛のために村に残ってください」


隊列の説明から始まった。

俺たちが先頭を行くようだ。

まあ、騎士たちはこの辺の土地を歩きなれていないから仕方ない。

クリムは、作戦の説明を続ける。


「敵と遭遇したら、自警団は道をあけ、騎士たちが前に出ます。

 笛で合図するので、それに従ってください」


「山城は狭く、全員で突撃すると乱戦になり危険です。

 あまり大勢では入れませんので、

 戦いになるとしたら、山城の周辺の広い場所になると思われます。

 アマレートさんを中心とした本隊は、敵の多くをひきつけつつ、

 ノエルさんを中心とした遊撃隊は、首領ガデニアのいる城中心部へ斬りこんでください。経路は……」


クリムは部隊を2つに分けて、山城を攻略する旨を説明した。

クリムやステラの調べた結果から作成した、かなり詳細な作戦内容だった。


説明後、ヘーゼルが話しかけてきた。


「俺もお前の部隊に加わる。

 約束したもんな。ノエルを支えると」


ヘーゼルは、俺にそう言った。

クリムも、ヘーゼルに続いて、こう話す。


「ノエルさん。

 私も遊撃部隊に加わります。

 私とステラさんが先導します。城内のことは知っていますので。

 戦闘になったら、ノエルさん、ヘーゼルさん、シャロさんを中心に

 敵をけちらしちゃってください」


クリムとヘーゼルの心遣いに、俺は少しだけ安心した。

そして俺たちは山に足を踏み入れるのだった。

山賊を退治するために。

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