第27話 騎士団の到着

「村長。私たちは、山賊の討伐に来ました。

 今まで、山賊をのさばらせていたこと、お詫びします。

 すべては、悪しき帝国のせいです」


その騎士は、村長に深々と頭を下げていた。

彼女の名はアマレート。

オーラン領騎士団の騎士団長である。


「帝国の進撃も、今は停滞しております。

 我々は、戦力を立て直し、

 ようやく、村を悩ませる山賊を退治することができるようになりました」


村長は、アマレートの言葉に、安堵したかのように、うなずいた。


「山賊の城の場所は、自警団の者から聞いております。

 ものの数日もあれば、制圧できるでしょう。

 しかし、我々は、山道に不慣れでございます。

 村の自警団の人々をお貸しください。

 彼らに、山の案内役をお願いしたいのです」


村長は、こころよく同意した。


「ありがとうございます。

 それでは、自警団のリーダーに、協力を要請します。

 ……リンツ。自警団の詰め所の場所を教えてもらってもいい?」


アマレートは、自分のすぐ隣にいる、一人の騎士に声をかけた。

顔の片方を、長い髪の毛で隠した、その男性騎士の名をリンツといった。

アマレートの副官で、側近とも言える立場であった。


「はっ。こちらです」


リンツは、背中のマントを翻しながら、アマレートを案内する。

村長の家から少し離れたとき、アマレートは、小さな声で、リンツにたずねる。


「リンツ。少しいいか。

 今回の山賊退治の件……。

 本当は、山賊退治が主ではない」


「知っていますよ」


「……知っていたか。安心したぞ」


「突然決まったことですからね。

 領主様から『ある重要人物が山賊に捕まっているから助けてほしい』と。

 山賊退治は、ついでであると。

 もちろん、私は、ついで扱いはよくないと思っていますがね」


「山賊退治ができるのは望ましいことだが、

 帝国との戦争を理由に、今まで放っておいたのも事実だ。

 それが、今になって、

 『重要人物が捕まっているから山賊を退治しにきた』などと……。

 とても村人たちに言えるものではない」


「そうですよ。絶対に言ってはなりませんよ」


「わかっている。

 それに、私たちが、こうして山賊退治をしている間、国境の守備は薄くなる。

 帝国の進撃が止んでいるのは事実だが、

 国境の守備兵を減らしていいわけではない。

 早急に山賊を退治し、国境の守備に戻らねばならない」


「さようでございます」


「……ところで、『重要人物』は、今、この村にかくまわれているらしいな。

 あの『魔剣使いのノエル』の家に」


「アマレート様、よくご存じですね。

 そのとおりです」


「我が軍の密偵の情報網は、尋常ではないからな」


「誰も村人の中に、密偵がいるなんてわからないと思いますよ」


「まったくだ。

 今すぐ、ノエルの家にいる『重要人物』を、私たちが保護し、

 国境の守備に戻ってもよい。

 ……が、それだけでは、村人からの信頼がガタ落ちになってしまう。

 山賊退治は、信頼を維持するためにも必要だ」


「さようでございます。

 重要人物を保護するだけでなく、山賊をたたいて、村人の信頼を得る。

 その判断は間違いではないと考えます」


「うむ」


こうして会話しているうちに、自警団の詰め所にたどりつく。


「ここが自警団の詰め所です。

 先に、ザッハとリッターを向かわせて挨拶を済ませています。

 さあ、自警団長がお待ちですので、アマレート様もどうぞ」


「ザッハとリッターが? そうか。

 彼らが先行しているのだな」


「ええ、会談の場をセッティングしているんですよ」


ザッハもリッターも、アマレート配下の騎士である。


彼らは、アマレートに先んじて、自警団に挨拶を済ませ、

騎士団と自警団の会談の場を準備していた。


特に、お調子者であるザッハは、たびたび、自警団と騎士団の間を和ませていた。

自警団の詰め所に笑い声が響く。


もう一人の騎士、リッターは、うすらぼんやりとした顔でそれを眺めている。

ザッハとの落差がすごく、それはそれで、周囲の笑いを誘う姿だった。


その後、アマレートが話を切り出す。


「騎士団長のアマレートです。

 ……この度は、皆さまにお願いがあり、ここに参上しました。

 お話というのは……」


アマレートは、自警団に説明し、協力を求めた。

自警団の人々は、山賊が退治できるなら、と喜んで口々に協力を申し出た。

みんなやる気だった。

アマレートは安心した。

村人たちの反応がどのようなものか、気にしていたからだ。

反応は悪くない。これなら、短期間で山賊を退治し、国境守備の任務に戻れそうだ。


そんな中、自警団の一人が、アマレートに話しかけてきた。


「この村に、元傭兵の人がいて、とても強かったらしいですよ。

 名前をノエルっていうんですけど……。

 本人はあまりやる気はないみたいですが、腕は衰えてないみたいです。 

 先日の山賊の襲撃から、村を守ったのですし。

 騎士団の皆様の役に立つはずです」


アマレートは、すでにノエルのことを知っていた。

密偵からもたらされた情報があるからだ。


自警団の人が話すことを聞く限りは、相当いい噂ばかり聞く。

一方で、「あいつは引きこもってばかりで、何もしていない」という悪い声も聞く。


魔剣使いのノエル。

かつて帝国側の傭兵団に所属し、強力な魔剣マンサルクを操り、

帝国に逆らう人々を血に染めたという。

だが、今は傭兵団を辞めて、ずっと家の中にいる。

それに魔剣も使えなくなっているらしい。

アマレートは、ノエルを戦力として数えるのは「微妙」だと感じていた。


そこに、アマレートの部下である、騎士ヘーゼルが戻ってきた。

ヘーゼルは、ノエルと旧知の仲でもある。

さっき、ノエルと会ってきたはずだ。

アマレートはたずねる。


「ヘーゼル。魔剣使い――ノエルの様子はどうだった?」


「普通そうでした。俺と会った頃から、何も変わってませんよ」


「そうか」


「いや……変わったことは、少しありました」


「あるのか?」


「はい。

 昔会ったときより、戦意が少なくなった気がします。

 あくまで、印象論ですが。

 それに、顔つきが、どこか暗かったですね」


「……そうか。何かあったのだろうな」


「ノエルの奴、俺と話すときは、いつもどおり振舞っていましたが……。

 わかっちゃいますね。顔つきや全体的な雰囲気は。

 そこは、とりつくろえないです」


「ノエルのことは、わかった。

 ふむ……。

 山賊討伐の戦力になるかどうか、見極めたかったのだが、

 その様子では難しそうだな」


「騎士団も人手が足りてないですからね」


「私がここに連れてきた騎士団員も、ぎりぎりの編成だ。

 国境の警備をできるだけ薄くしないように、かなり気を使った。

 満足できる戦力とは、とうてい言えない。

 戦える者は動員したいと思っている」


「そうですね。魔剣使いのノエル……。

 もう一度話して、戦力になるか、見極めたいです」


「頼んだぞ」


「はい」

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