第12話 棍棒使い

棍棒を握りしめた俺は、岩の裏から出ると、

山賊をひとりひとり倒していった。

まるで魔剣を手にしていたかのような感覚で。


そうしているうちに、山賊たちは逃げていった。

あっけない勝利だった。


つ、疲れた。死ぬかと思った。

戦闘モードが解除された俺は、無限とも思える疲労に襲われ、

その場に座り込んだ。


そして、弱弱しい握りこぶしをつくり、ぽかっと魔剣を小突く。

こいつめ、なぜ肝心なときに使えないのだ。


魔剣は答えてくれない。

当たり前だ。魔剣に人格はない。

それでも答えてほしかった。


「ノエルさん! ノエルさーん!」


遠くから声が聞こえる。

その声は……クリムか。


クリムだけではなかった。

クリムの背後には、俺の見慣れた人々が多数いた。

引き連れてきたのだろうか。


・妹二名(シャルロット、ステラ)

・村の自警団の面々(ブラウン、ジュゼット、ハンナ、フレッド)


「山賊の動きがおかしかったので、

 こちらの様子を見に来たのです。

 まさか、陽動作戦を見抜けなかったとは……。

 私も軍師としてまだまだですね」


クリムは、反省の表情を浮かべた。

クリムの反省も無理はない。

軍師見習いとして、敵の作戦に引っかかってしまったのは、かなりの恥だろう。


「まあ、山賊も大勢やっつけたし、

 しばらくは襲ってこないだろう」


俺はフォローを入れる。


「兄貴も情けないよなー。

 魔剣があるのに、まったく使えないんだもん」


うっ。それを言われると少し痛い。


「魔剣が使えない? どういうことですか?」


クリムが首をかしげる。

不思議で仕方がないという表情だ。


「……俺が傭兵時代に使ってた魔剣マンサルクが、

 なぜか鞘から抜けなかったんだ」


「貸してみてください。私も抜いてみます」


クリムが魔剣マンサルクを手にし、

いともあっさりと鞘から魔剣を抜いた。


黒々とした刀身が、俺の驚愕した顔を映す。


「え? あっさり抜けましたよ」


「そんなバカな」


「うーん? もう一度やってみてくださいよ、ノエルさん」


クリムから返された魔剣を、俺は手に取ると、

もう一度がんばって鞘から抜こうとする。


うぐぐ。うぐぐ。

うぐぐ……。

だめだ、抜けない。


「じゃあ貸してみてよ。私も抜いてみるから」


シャルロットは俺から魔剣を借りると、

こちらもあっさりと、鞘から抜いた。


「えー? こんなあっさり抜けるのに、

 ノエルは抜けないの?」


バカにしたような表情を向ける。

う、うるさい。そんな顔をしないでほしい。


「どうしたんでしょうね?

 ノエルさんがわざと魔剣を抜けない演技をするようにも見えません。

 本当に抜けないようです……」


俺が抜けない魔剣を、シャルロットやクリムがあっさりと抜いた。

不思議でならない。

なぜ? 俺だってその答えを知りたい。


でも。もしかして。

なんとなく、俺は気づき始めていた。

俺と魔剣は数か月前まで、多くの人を殺めていた。

その記憶を思い出すたびに俺は……魔剣を遠ざけたい気持ちになっていた。

無意識に、魔剣を避けているのだろうか。

そうだとしたら、俺はもう魔剣を抜けないのだろうか。

誰かを守る戦いだとしても……。


そんな俺の気持ちに冷や水を浴びせるように、

無責任にシャルロットが言い放つ。


「きょうから、その棍棒を魔剣のかわりとすればいいじゃない?

 お似合いよ、ノエル」


棍棒使いのノエル。きょうからそう呼ばれるのだろう。

ああ、憂鬱だ。


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