第11話 盗賊妹

魔剣を使うことはできなくても、

俺の体は、傭兵時代の勘の良さを今も持ち続けていた。

的確に攻撃をかわし、木や岩などの障害物を盾に、攻撃を防ぐ。


山賊たちは、俺の身のこなしに驚きつつも、

執拗に攻撃をしかけてくる。

なぜだ? 丸腰に等しい俺を狙わなくてもいいだろ。

さっさと村の財産でも巻き上げたらどうだ。

そんなふうに思っても、連中の攻撃は止まないわけで。

もしかしたら、危険人物とみなされ、今のうちに殺そうとしているのかもしれない。


だんだん疲れてきた。

体力が減り始めている。動きもにぶる。

そのうち、敵の攻撃をまともに受け、命を失うだろう。


逃げ回ることしかできないのか!

俺は心の中で何度も舌打ちした。

魔剣は役に立たない。

だが代替品となる武器をもっていない。

このままではやられてしまう。


疲れた俺は、岩の裏に、体を預けた。

ここなら見つからないはずだ。

だがそれも時間の問題だろう。

山賊どもは執拗だ。どこまでも追いかけてくる。


ん?

なんか、山賊たちが騒がしいな。

岩の裏から様子をうかがう。


「おい! 俺の棍棒はどこいった?

 さっきまで右手に持っていたのに……」


「は? バカ言えよ。

 さっきまで右手に持ってたものが急になくなるわけないだろ」


「本当なんだよ。

 ちょっと目を離したすきに、すっと無くなってたんだよ」


情けなさそうな声で訴える。

得物の棍棒が急になくなったらしい。

近くに泥棒でもいるのだろうか?

山賊の武器を盗みとる泥棒……。

いったい何の因果だろうか。

そんなふうに、俺は、追い詰められているにも関わらず、余計な考えをしてしまう。


「ねぇ、棍棒の行方が気になる?」


俺の耳元で、至近距離で、小さくささやく。

誰だ!?


俺は声を出しそうになった。

すぐ隣を見る。


小柄な少女がいる。

ん? こいつはどこかで見たぞ。

それどころか、名前も知っている。

まぎれもない。こいつは俺の……妹だ。


「……なぜここにいる? ステラ」


「なんでって?

 うーん。器用だからかな?」


器用なこの妹は、あまりに手癖が悪く、いろいろなものを盗むので、

縛って部屋に閉じ込めておいたはずだった。

だが、それも意味がなかったらしい。


「器用なこの指先に、監禁のロープもカギも通用しないのだよ」


盗賊のようなこの妹は、両指をわしゃわしゃと動かした。


「それよりさぁ、ここに棍棒があるんだけど、いらないの?

 なんか戦いにくそうにしてるからさ」


「おまえ……その棍棒は」


「さっき、あっちにるガタイのいい怖いお兄さんから拝借したの」


「拝借? 盗んだんだろうが」


「そんな怖い顔しないで、ね♪」


盗賊妹のステラは、棍棒を俺に手渡した。

これで戦えというのか?

敵の武器とはいえ、盗品だ。


ステラが盗品を持ってくるのは一度や二度ではない。

両手では数えきれない回数を盗んでいる。

ときには商品、ときには作物。

俺もシャルロットもとうとうキレて、ステラを縛って監禁してしまったのだ。

突破されたけど。


今の状況じゃ仕方ない。

盗品も命綱となる。

そう言い聞かせて、棍棒を持ち、にぎりしめる。

剣に比べれば使い慣れていないけど、

使い慣れた名品のようにしっくりくる手触りだ。

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