第10話 不殺の魔剣

不思議なことが起きた。

俺の指は、たしかに魔剣の柄をにぎっている。

それなのに、なぜか、魔剣が鞘から抜けなかった。


バカな。

この数か月、魔剣のメンテナンスもしっかり行ってたし、

訓練だって欠かさなかった。


それなのに。

鞘から抜けない。


くそっ。なぜだ!?


俺の困惑をよそに、山賊の斧は、俺の頭をとらえる。


よけろ! よけろ!

頭の中で、そんな言葉が聞こえる前に、俺は反射的に体をのけ反らせた。

斧の刃が俺の額すれすれをかすっていく。


「どうした、魔剣使い?

 怖くて、剣が抜けねぇか!」


山賊が煽ってくる。


俺も好きで抜かないわけではない!

魔剣が、俺の言うことを聞いてくれないだけだ!


そんな心の声を表に現すわけにいかない。

かえって舐められるだけだ。


でもどうすればいい? 眼前の山賊たちは健在だ。

好戦的な面構えで、こちらに迫ってくる。

手に手に斧や棍棒を持ち、俺の頭をつぶさんと狙う。

なのに、俺の身を守ってくれるはずの魔剣は、何も反応しない。


このままでは死んでしまう。

魔剣よ、なぜ俺の言うことを聞いてくれない?

くっ……。

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