第9話 魔剣使い

このへんに住みつく山賊たちは、だいたい犯罪者の成れの果てだ。

盗みや傷害、殺人を犯した者たち。

普通なら、牢屋に入れられたり、処刑されたりする。

しかし、一部の犯罪者たちはなんとか逃げ切って、人気のない山へ。

徒党を組み、山賊と化す。


山賊は本来であれば、騎士たちに討伐されるはずなのだが、その騎士たちはいない。

ガトー帝国との戦争に駆り出されているためだ。

そして山賊たちは調子に乗り、村を荒らし始める。まったく、やっかいな奴らだ。


俺は重い腰をあげて、魔剣をつかみ、前へ前へと進む。


いた。山賊の集団だ。

明らかに村の者ではない雰囲気。

ぼろぼろの衣服を身にまとい、重そうな棍棒や斧を装備している。


自警団の人たちは何をしているのか。これだけの山賊集団を見逃すはずがない。

まさか、突破されたのか?

いや、今はそんなことを考えている暇はない。


俺の生活の平穏を取り戻すために――


殺すしかない。あいつらを。


俺は少しずつ山賊に近づく。隠れながら、そろそろと。

山賊たちは、まだこちらの姿に気づかないのか、何やらのん気に会話をしている。


「自警団の奴ら、姿が見えませんね」


「別働隊がひきつけているからなぁ」


「別働隊はうまくやっているんだろうな」


「うまくやっているだろうよ。そうでなきゃ、こんなあっさりと村には侵入できねぇ」


「まさか俺らが、村に侵入したなんて、気づかれてないだろうよ、がはは」


山賊たちは、余裕の表情で、笑いあっている。

何が、がはは、だ。

元傭兵の俺に気づかれている時点で、失敗だろう。

しかし、別働隊か。奴らもうまく考えたものだな。

自警団が別働隊に気をとられている間に、村を襲っちまうという寸法か。


まあいい。山賊どもめ。もうここで終わりにしてしまおうか。


俺は意を決して、建物の陰から現れる。

山賊たちの目の前だ。即座に気づかれる。驚きの目で見られる。

それもそうだ。何せ、俺は武器を持っているからな。

だが心配は無用だ。俺には魔剣がある。実力もある。あんな10数人くらいの集団、屁でもない。


「おい、そこの兄さん。1人か? そんな物騒な剣は捨てるんだ。

 俺たちのほうが数は多いんだ。勝てるわけないだろうが」


山賊たちは、こちらをバカにするかのような笑みを浮かべて、降参を促す。

俺をなめるな。こっちは1人で百人分は戦えるわ。百人襲っても大丈夫なんだよ。


「おい、何か言ったらどうなんだよ」


山賊のひとりが、イライラしながら、俺のすぐそばに近寄ってくる。

山賊の手には、ごつごつとした棍棒らしきものがにぎられている。

あの棍棒は何人の頭をつぶしたのだろう。でこぼこに歪み、黒ずんでいる。


「俺を、誰だと思っている」


俺はちょっとだけ深呼吸して、そうつぶやいた。


「あ?」


山賊は不快そうに顔を歪ませた。

知らんがな。と言いたそうな顔をしている。


「元ザカークト傭兵団のノエル……と言えば少しはわかってくれるか?」


「ノエル、だと……!」


山賊団のひとりが、顔をこわばらせる。


「なんだ? おめぇ、こいつが何者か知っているのか?」


「ああ。ザカークト傭兵団といえば、帝国の手先となって、

 次々と大陸の各国を侵略している、血塗られた傭兵団さ。

 なんだって、こんなザカークト傭兵団の人間が、こんな片田舎にいるんだ?」


「嘘に決まってんだろ。こんな田舎の村に、いるわけないだろ!」


山賊たちは、疑いの目を俺に向けた。

どうやら俺は疑われているらしい。

血塗られた傭兵団の人間が、こんな片田舎にいるわけがない。奴らは、そう言いあっている。


無理もないだろう。俺は、こんな村に戻ってくるつもりはなかったし、

実際、俺が山賊の立場だったら、間違いなく疑っている。間違いなく、だ。


疑われて、舐められて終わるより前に、俺は、自分の力を証明する必要があった。


「この魔剣を見ても、か?」


俺は、黒く塗られた魔剣マンサルクの柄に触れ、鞘から抜こうとした。


「魔剣!?

 そうか、思い出したぞ、魔剣使いのノエルだな」


山賊のひとりが、驚くように発した。


「元ザカークト傭兵団の、魔剣使いのノエル。

 若きその青年は、帝国の手先となり、幾人もの敵を斬殺。

 しかし数か月前に消息不明になる……。

 たしか、そういう情報を聞いたことがある。

 まさか、まさか……本当に? 魔剣使いのノエルなのか?」


山賊のひとりが、がくがくと唇を震わせる。

俺は、それに答えない。答える気も起きなかった。


「ふざけんな! こんなところに魔剣使いがいるわけがない!

 さっさとやっちまえ!」


山賊のひとりが斧を振りかぶり、こちらに迫ってきた。

追随するように、他の山賊も、俺に襲いかかってくる。


山賊たちの姿が、視界の中で少しずつ大きく迫ってくる。


俺は、魔剣の柄に手をかけた。そして――。


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