第8話 再戦
クリムも、ブラウンも、シャルロットも、みんな行ってしまった。
俺はおいてけぼりだ。
……いや、これでよかったのかもな。村のみんなとも、山賊とも、かかわりたくないし。
俺はずっと家の中にいるのが一番だ。家に帰ろう。
少しだけ重い足取りで、とぼとぼと、家に帰る。
30分ぶりの我が家だ。ドアを開け、中に入ろうとする。そのとき、一瞬足を止めた。
俺は気づく。家の横にある、一つの倉庫に。
あの倉庫は、たしか使わない家財道具などが、雑多に詰まっている。
埃もかぶってて暗い場所だし、正直はいりたくない。
でも、今日だけは違う。
なんだかよくわからないけど、呼ばれているような気がしたのだ。
「……魔剣が俺を呼んでいる?」
あの倉庫には、魔剣マンサルク――俺の傭兵時代に使っていた剣が眠っている。
さわりたくない、あの忌まわしい魔剣が。あの魔剣は、もう何人もの血を吸っていた。
俺にとって、思い出したくない記憶が、いっぱいいっぱい詰まっている。
だが嫌な記憶というものほど、ずっとおぼえている。忘れられない。
だから、つい魔剣について人に語ってしまうことがある。
シャルロットからは「魔剣魔剣言うのは、恥ずかしいからやめなさい」といわれているが。
魔剣ってかっこいいのに、どうして恥ずかしいとか言うのだろう。
「……やめてくれ。俺はもう、お前とは会わない。さようならしたんだよ」
俺は、魔剣への思いをふりきるように、倉庫から目をそらし、家の中へ入る。
魔剣はかっこいいが、負の側面もある。あれは人殺しの血塗られた剣。忌まわしき記憶。だから、みだりに陽の目を見せてはならぬ。
このとき、俺は、もう二度と、魔剣マンサルクをにぎることはないと思っていた。
――だがそれは一変する。山賊の襲撃によって。
それは唐突に起きた。
家の中で本を読もうとしたら、ただならぬ気配を感じたのだ。
遠くから、女性の悲鳴とも、動物の鳴き声とも、どちらともつかぬ声が聞こえたような気がした。
窓の外では、風の音が止み、太陽が雲に隠れていく。暗雲。光、なし。
俺はゆっくりと本を閉じる。本を机に置く。立ち上がり、深呼吸する。
肩がぶるっと震える。肌に寒気を感じる。乾いた空気が、俺の全身を刺激する。
――嫌な予感がする。
俺の、元傭兵としての本能が、そう告げている。やらないと、やられる。
もう人殺しはしたくない。腕を汚したくない。魔剣をにぎりたくない。だが、そうもいかないようだ。
このままぼうっとしていれば、山賊の凶斧がふりおろされ、家が、本が、命までもが、めちゃくちゃに打ち砕かれる。
自分の身を守らねばならない。俺は倉庫へと足を運ぶ。
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