第3話 農民妹
「ノエル、誰なの、その人は!?」
家に帰ってくるなり、妹は驚きの顔で、俺とクリムを見る。
そりゃそうだ。朝でかけて、帰ってきたら、知らない人間がいるのだから。
俺が逆の立場だったら、絶対驚いているだろう。
「見習い軍師のクリムだ。家の前で倒れているところを拾った」
「拾ったって、まるで野良猫みたいな扱いだね」
「にゃーん」
クリムは野良猫の真似をしているらしい。陽気な性格のようだ。
「軍師見習い? …ふーん」
見習い軍師という言葉が、少し引っかかったようだ。妹も気になるのだろうか。
まあ、俺も気になったし、同じようなもんだろう。
「初めまして。私、シャルロットって言うの。よろしくね、クリム。
『シャロ』って呼んでね」
「クリムって言います! 見習い軍師です! よろしくお願いします!
シャロさん!」
「元気な子ね……」
クリムのテンションの高さに、少し引いてしまったようだった。
シャロはどちらかというと、あまり明るいほうではなく、クールな人間だった。
相性がよくないかもしれない。
「クリムは軍師見習いとして、各地を転々と旅したあと、お金が底をつき、
家の前で倒れてたってことさ。
ところで、シャロ。相談がある。聞いてくれないか?」
「相談? なんなの?」
「クリムは仕事がほしいらしい。農作業でも家事でもなんでもいい。
お金がもらえる仕事はないか?」
「……うーん」
シャロは悩みだす。まさか、仕事がないのだろうか。
「どきどき…」
クリムは胸を手でおさえ、固唾をのんで黙っている。
不安と希望が交差しているのだろう。
「軍師見習いのクリムに、うってつけの仕事があるわ」
「えっ!? あるんですか!?」
クリムの表情が、ぱっと明るくなる。うれしそうな顔でシャロを見つめる。
しっぽを振る犬みたいだ。
「見習い軍師のクリムにうってつけの仕事? 農作業や家事ではないのか?」
俺は気になって尋ねてみる。
農村に、軍師の仕事があるのだろうか。そんなはずがない。
「軍師って、アレでしょ? 兵隊さんたちに戦い方を教えて、
戦争に勝っちゃうっていう。頭を使う仕事よね」
「まあ、そうだが…」
「兄さんも知ってるとは思うけど、
今、私たちの村が、山賊の脅威に晒されているのは
知っているでしょう?」
「そうだな。たしかに山賊の件は知っている。
まさかクリムを山賊対策に…?」
「そうよ」
山賊。
俺たちのいるカスタット村は、山に周囲を囲まれている。
その山々に棲みついた山賊どもが、周辺の村を襲っている。
カスタット村も例外ではない。いつ襲われるかわからない。
そのため、自警団を組織し、村を警備しているが、安心はできない状況だ。
「クリムには、村の自警団の手伝いをしてほしいの。
山賊に攻め込まれないようにはどうしたらいいか、
攻め込まれた場合、撃退するにはどうしたらいいのか。
教えてくれないかしら」
「は、はい……! 喜んでお手伝いします!」
クリムは、シャロの手をとり、うれしそうな声をあげた。
「クリム」
「はい?」
「その前に、お風呂入ってくれるかな?
その……何日も入ってないでしょう?」
「うう…めんぼくないですぅ…」
ぼろぼろの服やマント。ぼさぼさの髪、薄汚れた肌。
今のクリムの姿はあまり綺麗ではない。
クリムは、自分の今の恰好を思い出したのか、申し訳なさそうな顔をするのだった。
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