愛を悪意に

悪鬼あっき、それは悪意の権化。


……。


悪鬼の姿は生者と大差がないから、人々に紛れて生活できてしまう。


悪鬼が見つかる時、その殆どは性格の変化だ。


昨日まで優しかった人が、急に冷たくなった。


害された、脅かされた、苦しめられた。


その急変。


多くの悪鬼は愛する人を苦しめる。


苦しめる事で嫌われようとしている。


だから、餓鬼に比べて分かりやすい。


でも、言動に乱れが生じたからって悪鬼だと決めつけるべきではない。


その乱れは、悪鬼に、心を揺さぶられた、常人、なのかもしれないから。


……。


悪鬼の持つ特異な力、その一つが理性の弱体化だ。


人の理性は欲望を抑える。


抑えるからこそ、他者の意思を重んじることが出来る。


でも、理性が欲望を抑えられなかったら、人は他者の心を軽んじる。


それは関係を変え得る。


――。


悪鬼は愛する人を苦しめる為に、愛する人の大切な人を狙う。


人は愛されたい人から愛されないって事が苦しくて嫌だと思う。


時に、その原因を嫌いに成ったり、恨むことだってあると思う。


悪鬼は、そんな状況を作ろうとする場合もある。


人の理性を弱らせ、悪行を働かせ、『唆したのは私だ』と告げる。


現実で、夢で、様々な場所で、愛する人に語る。


『私が』『だれだれを』『どの様に陥れたか』を。


愛する人から『お前のせいで』って思われたら成功だ。


悪意を探せば悪鬼が見つかる。


でも、それは、必ずって訳じゃない。


だって、悪鬼と関係なく、悪意を持っている常人は居ると思うから。


断言できないのは、悪鬼の関与を否定する事が困難だから。


でも、悪鬼という存在が居るからって、全てを悪鬼のせいにしている人は居る。


それは私の直観だけど、そう思う。


……。


悪鬼に理性を乱された人が犯した罪は軽くなる場合がある。


でも、それは、悪鬼の影響が証明された場合に限られる。


その判断は難しい。


悪鬼が答えを教えてくれるとは限らないし、教えてくれたとしても、その言葉が正しいって判断しがたい。


だって悪鬼は悪意の権化だから。


悪鬼の言葉、その是非を判断できる人は居ないから。


悪鬼の言葉で証明は出来ない。


でも、悪鬼の研究者や精神の専門家などが『悪鬼の関与がある』って結論付けた場合、罪が軽くなる事もある。


なんで、罪が軽くなるのか。


それは『悪鬼のせいで罪を犯した人に責任を求めるのは変だ』って価値観が浸透しているから。


それは、悪鬼が人の理性を弱める力があるって、考えられ始めてから形成された価値観。


それは真っ当な価値観だと思う。


誰もが加害者に成り得、予防ができない、そんな不可抗力に、責任を求められたくない。


でも、その価値観は、悪鬼を理由に責任から逃れる人を生み出した。


『悪鬼のせいだ』って言う人を。


人の内心を覗き見る事なんて、多分、出来ない。


その人が何を思っているのか、考えているのか、分からない。


それを知るには、調査するしかない。


徹底した調査を。


その人の罪は悪鬼のせいなのか、を。


最後は推定だから、その結果が、間違っている事だって、あると思う。


でも、善人を、悪人って言うべきじゃない。


だから、ある程度の間違いは仕方がないって、割り切るべきなんじゃないかって思ってしまう。


だって、そうしないと、極端になってしまうから。


……。


悪鬼の標的は無差別に選ばれない。


悪鬼の目的は、愛する人から、嫌われたり、恨まれたりする事、だから。


その為なら、悪鬼は犯罪者を脱獄させることだってある。


超常的な力を使って。


悪鬼の標的は無差別じゃないけど。


二次的な被害で無関係な人々を苦しめる事だってある。


昔、悪鬼により蘇った餓鬼がきは、人々を喰らった。


その悪鬼は愛する人を餓鬼にする事で苦しめた。


飢えの苦しみを。


愛する餓鬼から恨まれた悪鬼は喜んだ。


その結果、多くの人々が喰われた事を悪鬼は気にしない。


そんな悪鬼に倫理観を求めるべきじゃないって思う。


……。


悪鬼がどうやって生まれたのか、それは分かっていない。


蘇った、そう考えるのは、死んだ者が、悪鬼として現れたから。


吸血鬼きゅうけつきや餓鬼は、悪鬼が蘇らせたって語り継がれている。


でも、悪鬼の始祖は、何が、誰が、蘇らせたのか、それは語られていない。


怪しげな術なのか、自然に発生したのか、何かを食べて変異したのか。


あるのは噂話だけ。


【終わり?】

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