餓鬼を見つける為に

鬼狩おにがり、それは鬼を狩る者。


鬼であろうと、鬼で無かろうと、鬼を狩るなら、鬼狩りだ。


……。


悪鬼や餓鬼の容姿は生者と大差ない。


だから、外見だけで判別する事は難しい。


鬼狩りは語る『生きた人肉を喰らわねば、腹を満たせぬ者、それが餓鬼だ』と。


鬼狩りは語る『悪鬼を見つけるなら、人の悪意を見よ』と。


……。


餓鬼はある程度なら、飢えに耐えられる。


苦しくても『人を食べたくない』って気持ちが、餓鬼に理性を与える。


でも、何時か、欲望に負ける。


それが餓鬼牢獄がきろのうごくを生み出した。


餓鬼牢獄は中世から始まった。


餓鬼牢獄、それは鬼を判別する場。


牢獄の主は見極める、囚人が、人であるか、鍵であるか、を。


餓鬼を閉じ込め、穀物や獣の肉で作られた、常人の食事を与える。


常人の食事で空腹が満たせぬ者は餓鬼である。


餓鬼は首を落とされ、燃やされる。


生き返らぬ様に。


――。


牢獄に閉じ込め、常人の食事を与え、飢えの具合から、判断する方法は現代も行っているけど、現代は人権が重視されている。


昔の餓鬼牢獄は『こいつは餓鬼だ』って決めつけて長期間拘束したり、邪魔者を餓鬼として処刑する為に食事を与えず飢えさせて、民衆に餓鬼だと思わせたって話もある。


人権を軽んじた冤罪を再び起こさない為に、現代は明確な法の下で餓鬼牢獄が行われている。


1、餓鬼の疑いがある者を拘束する期間は一週間である事。


2、容疑者が満足するまで常人の食事を与える事。


3、一切の人肉を与えない事。


4、軟禁する事。


5、容疑者の身体や精神を考慮して行う事。


など。


過酷な環境にしたら、餓鬼か如何かが分かる訳じゃない。


あくまで人肉を食べないと満たされないって事が判断基準。


だから、投獄すべきじゃないって主張を行っている人がいる。


『生活を監視して、人肉を食べていなければ、餓鬼じゃないって分かるだろ』って言う人も居る。


それは、そうなんだけど、常に監視するって方法は大変だから、国は好まないと思う。


何処かに人肉を隠して居たり、獣の肉に見せかけて、人肉を調理している可能性もあるから。


生肉は日持ちしないから、乾燥させて干物にしている可能性もある。


結局、投獄した方が楽って結論になる。


でも、それは、する側の考えで、される側の考えじゃない。


だから、餓鬼牢獄を好まない人は多いらしい。


それは、昔に比べて、国を信用する人が少なくなったから、かも知れない。


信用する人が少なくなった原因は、多分、あの事件だ。


数十年前、餓鬼牢獄で常人と判断された人が餓鬼だったって言う事件。


牢獄の食事に人肉が混じっていたんじゃないか、とか、一週間っていう期間は短いんじゃないか、とか、人肉を食べなくても平気な餓鬼が居るんじゃないか、とか、


色々な噂が飛び交った。


国は、その事件を原因不明と結論付けた。


与えた食事を調べようにも、食べ終えて消化された物は調べられない。


看守を取り調べても『人肉を与えていない』って言われた。


餓鬼牢獄を終えた後『餓鬼に成ったんじゃないか?』っていう考察もあったけど、その事件を調査した警察は、餓鬼牢獄から出た後に死んで蘇ったっていう確証は得られなかった。


その事件は解決しなかった。


それ以降、反政府運動は過激になっているし、『餓鬼なんじゃないか』って疑われている人が殺されるって私刑が増えた。


国が『餓鬼牢獄が厳正に行われるよう、徹底する』って言っても『本当に?』って疑う人はいる。


『口先だけじゃないのか』なんて言われるのは、信用されていないからだ。


国は国なりに、やっているけど、分からない事は人々を不安にさせる。


不安な人に『大丈夫』って言っても、効果は薄い。


今の所、反政府的な言動を行う人は少数派だけど、情勢がこのままだっていう保証はどこにも無い。


もし、もう一度、同じような事件が起こったら、この国はどうなるのだろうか。


そんな不安はあるけど、吸血鬼に出来る事は、鬼を狩る事だけ。


吸血鬼は国民じゃないから。


【終わり?】

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