2.故人再現ロボット

 ある所におじいさんが住んでいました。おじいさんはベッドに横になったまま、愛する妻のことを思います。

 間もなく自分が死に至ること。そしてその後残される妻のことを。既に頭は朦朧とし、殆ど寝たきりになっていたおじいさんでしたが残される愛する妻のことがただただ気掛かりで仕方ありませんでした。

 ある日、おじいさんが一人でテレビをぼーっと見ていると、ある商品が映し出されました。

 故人再現ロボット。おじいさんはこれだと思いました。注文に沿って故人を完璧に再現し、その上で介護も可能といいとこ尽くめで値段も十分納得できるものでした。おじいさんはその場ですぐに注文しました。


 おじいさんは愛する妻を呼んで言いました。

「私はもうじき亡くなるが、何も心配することはない。私はいつでもお前の傍にいる」

 そう言われた妻は

「はい」

 とだけ答えて。おじいさんの手を優しく握って微笑みかけました。

「ああ……よかった」

 おじいさんはそう言うと、静かに事切れました。


 おじいさんが亡くなった後、しばらくしておじいさんの家に二人の男が訪れました。待ち構えていたようにおじいさんの妻が出迎えます。

「こちらです」

 そう事務的に案内された二人の男は会釈もすることなくおじいさんの部屋に向かいます。おじいさんの妻が淡々とおじいさんの遺体について死亡診断書の様式に従いその様子を述べていきます。

 一通り妻の言葉を聞いた後、二人の男の内年上の男が妻に話しかけます。

「遺族は?」

「連絡済みです」

「他に連絡事項は?」

「故人再現ロボットが発注されています」

 そう言って妻は印刷された発注書を男に手渡した。

「なるほどね。じゃあ初期費用は取ってとりあえず脳スキャンだな」

 そう独りごちた男に若い方が言います。

「いいんですか?配送先ここになってますし……受け取る人はいませんけど」

 そう言った若い男の言葉に溜め息をしたあと年上の男が答えます。

「いいんだよ。契約内容に入ってるし、後から再現してくださいって遺族が言うかもしれないだろ?」

「はぁ……まあそうですけど」

 どうにも腑に落ちない様子で若い男が返しました。

「それに泣ける話じゃねぇか。頭がボケて死の間際になっても残された妻のことを思ってロボットに後を託すなんてよ。まあ愛する妻はとっくに亡くなっていて、今ここにいるのは再現ロボットなわけだが」

「ボケちゃっても愛は不滅、ってことですかねぇ」

「ま、そういうことだし、うちのロボットがそれだけ故人を再現できてるってこった」

 そう言うと男は立ち上がり、妻を模したロボットに命令します。

「じゃあ諸々の手続き、配送よろしく頼んだぞ。――んじゃ俺たちは引き揚げて飲みにでも行くかね」

 男はそう言うと、若い男を引き連れて足早におじいさんの家を後にしました。

 男たちがいなくなった後、妻ロボットは直立不動のまま連絡処理を行い、部屋には静寂が訪れました。

 誰もいなくなった部屋で、おじいさんの頬に機械仕掛けの手が添えられ生前のおばあさんそっくりの声が響きます。

「おやすみなさい。おじいさん」

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