第14話 VS悪魔へ

 パチンコ好きの中年の能力に『ループ』というものがある。彼は2万円以内にパチンコの当たりが出ないと店を出る。すると、彼の願いである“あたり続けるまでパチンコを打ちたい”という欲求が昇華され、過去に戻ることができる。


 ループするのは、たった一つだけ。本人が心の底から本当に願っている望みをかなえる。競馬に勝ちたいと願えば、過去に戻り、当たり馬券を拾うことができるし、テストで100点を取りたいと願えば、100点取るまで同じ問題を繰り返し受けることができる。


 デメリットは、心の底から願わなければならないこと、また、たった一つだけしかループできるないということ。


 パチンコ好きの中年の願いはくだらないかもしれない。しかし、彼は真剣なのだ。彼の請う、当たりが見たい、という欲求はすごく強い。それが能力となる。


 『ループ』のメリットをあげるならば一つある。ループ能力が他人に付与でできる点。だから理人が望めば、パチンコ好き中年からループ能力を授かることができる。


 以下、理人の願い。


「海上日葵という少女を救いたい」


 と中年にお願いした。


「それが本心かね?」


「本心は、引きこもり生活に戻りたい。そのために日葵の悪魔を封印したいと願っている」


 もし理人の願いが聞き届けられれば、彼は何度でも悪魔に立ち向かう。一方、理人の願いが聞き届けられることは、中年男性の善なる能力を無くすことに等しい。


 好きなことだけしてい生きていけ。字面は爽やかでかっこいい。しかし、どれだけの人が好きなことだけで飯が食っていけるのか。人生経験の豊富な中年男性は熟知していた。理人は懇願する。


「日葵を倒し、元の引きこもり生活に戻りたい! んでずっと遊んで暮らす」


 これを聞いた中年はため息をつき、語りだす。


「私はパチプロになりたかった。しかし、時代はパチンコ屋を規制し、勝てなくしている。20年前であればパチプロはいっぱいいた。だが、今はどうだい? パチンコだけで勝てる人はほんのひとにぎりしかいない。私はずっとパチプロを目指していた。今は違うかい? 勝率100%。負けても勝てるまで何度でも繰り返す」


 中年男性は夢を実現している。銀行さんと同じようにお金に困らず、死ぬまでずっとパチンコを打ち続けるだろう。しかし、そんな人生でいいのか。


 友達はいるのか、飲める仲間はいるのか、理人は聞いた。


「ずっとギャンブルして一人で大丈夫なのか?」


「それは……」


 本来、パチプロとは集団を指すことが多い。イベント日に軍団を作り、メイン機種を占拠し、設定6をつかむもの。仲間内で情報交換して、大勝したら、みんなで焼肉や寿司を食べるのものだ。しかし、中年は一人で完結してる。たった一人で淡々とパチンコを打ち、友達も家庭も顧みず過ごしている。


 まるで機械じゃないか。


「中年さん、夢はかなった? 馬鹿じゃないか。賭博は勝つまでに試行錯誤する過程が一番大事なんだ。その努力が報われるのが大事なんだ。でも、あんたはずっと孤独じゃないか」


「うるさい、孤高と呼んでくれ」


 ギャンブル依存症に友達がいない人が多い。なぜなら友よりも金を優先し、友達から借りた金を返さず、家族に暴力を振るい、犯罪をする輩がいるからだ。真の依存症は法を超える。


「地位も金も女もすべてを手に入れた人生はつまらない。中年さん、あんたに夢を、ドリームを与える。能力を使わなくなった昔に戻るんだ」


「うう」


 中年は悩んだ。昔は攻略雑誌を買ったり、ユーチューブを見たり、ブログで勉強しながらパチンコを打った。スロットの技術介入に、面白くもないAタイプを、一日中回した。トータルで負けがどんどん積みあがった、でも楽しかった。パチプロになりたいと思い続けて20年。夢がかなったのは偽りだったのか、中年は警鐘を受け取った。


 100人中1人。たしかに今の規制が厳しくなった業界にもプロはいる。


 絶対に勝てるイージーゲームは家スロのようで飽きる。また、あのひりついた感覚を、中年は味わいたくなった。


「深海くん、私の負けだ。夢がなくなったのを認めよう。また、昔みたいに戻してくれるね」


「ああ、日葵の悪魔を倒して、中年さんにでっかいドリームを見せますよ」


 深海理人は『ループ』能力を得た。

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