第8話 休憩

「ちょっとトイレ」


 オフ会のメンバーに伝え、外に出る理人。


 賑やかな店内を後にし、お客の靴をまたぎ、外の空気を吸う。


「ふう」


 自己啓発を読んでいると、関わってはいけない性格が分かってくる。それは、成長しない人、今回のオフ会メンバーでいえば、ネガティブな話ばかりをする人だ。人間は過去は変えられない。しかし、現在は変えられる。成長する人とは未来に希望を持ち、努力する人を指す。努力の形は何でもいい。金持ちになりたいでも、モテたい、でも夢は自由だ。自己啓発が愛する人物とは、夢を持ち、それに向かって行動できる人を指す。だから理人は引きこもりに絶望しながらも黙々と本を読んでいる。将来は明るい。なのに今回のオフ会に来た人物たちときたら、言葉が悪いが、自殺志願者の愚図。過去の暗い話ばかりを自慢げに語り、社会に不平不満をぶちまけている。そのくせ行動や努力が感じられない。すべての原因を自分の外の人間に依存している。


「ダメだ。話がまったくできない」


 よくIQの差に開きがあると会話が成立しない、と聞くが。今回のこれは生理的な問題だ。好みの問題。例えば、理人は中学まで野球をやっていた。野球を観戦するのは好きだが、生理的に野球を受け付けていない。野球が嫌いなのだ。だから年取って将来の夢や希望がなく、年がら年中、20年前、30年前に、甲子園に出場した自慢をする大人が大嫌いだった。


 別に野球を愛している人、野球に人生を捧げている人が悪いわけじゃない。相性の問題なのだ。理人は成長の望めない、甲子園自慢をする大人が大嫌いだった。


 生理的に合わない人間は無理。無理で無理でしょうがない。もちろん大ベストセラーの『嫌われる勇気』を読み、甲子園自慢するおじさんに積極的に声をかけたこともあった。しかし、どうやら理人は、野球を愛している人、または野球に人生を捧げている人と合わなかった。合わせる努力はしたのだ。1年以上、野球で生計を立てている監督に合わせてみた。『嫌われる勇気』のおかげだ。しかし、全然だめだった。


 結局の話、相性はある。水が上から下に落ちるように、理人は甲子園に出場した、野球好きの監督と相性が最悪だった。


 ならば無理する必要はない。理人は頑張って接した。それでだめなら諦めて新しい出会いに期待しよう。引きこもりながら彼はポジティブなのだ。


 話を元に戻す。今回のオフ会の参加者とは相性は最悪。なぜなら理人が気持ち悪くなるほどだから。これは野球に人生を捧げた監督と比べて、同じくらい、相性が合わない。けれど諦めない。関わってはいけない希死念慮の強いグループと積極的に接してこそ、問題を打開できるかもしれない。


 課題の分離。


 暗いオフ会メンバーは変わらない。人は簡単に変えられない。変わるのは自分しかいない。


「大丈夫、大丈夫、大丈夫。きっとうまくいく。俺はできる」


 そう呟き、店の中に戻っていった。

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