第7話 オフ会

 白い猫によって集められた善の能力者たち。1000人規模のオフ会を敢行することは混乱なので、ネットのオンラインサロンに参加し、可能な人だけオフ会をすることになった。ラインでグループを作り、海山市に集合できる人を募る。


 今日、10人と一匹の猫がオフ会に参加した。理人が行きつけの食堂に集合し、それぞれ挨拶する。まずは善なる能力を発現する原因を作った“悪”日葵さんから。


「初めまして。海上日葵です。女子高生やってます。今は地球滅亡の危機を救うチャネラーをしてます」


 相変わらずの電波発現。しかし、ここに集まった人は誰も反論しない。なぜなら猫のテレパスで超能力者がいることを確信させられたから。また、自身も超能力者になってしまったから、日葵の言葉を信じる。“悪”なる日葵をやっつければ地球は無事に平穏を迎える。


 となるはずなのだが。


 それぞれの参加者が挨拶をする。冴えないリーマン。売れない地下アイドル。ぼっちの中学生。パチンコ好きの中年。みんながみんな、暗い。


 白い猫曰く、「善は人生に絶望している人間に与えられた」とのこと。


 善オフ会のはずが、自殺サークルの暗い雰囲気を催す。


 理人も人のことは言えない。文字が読めなくなり、勉強や文学ができず人生に絶望していた。


 日葵と猫を除き、社会の不適合者なる称号を得た9人の者たち。会話はあらぬ方向へ進んでいく。


 ぼっち中学生のいじめられっ子が発言した。


「あの、このまま地球を滅ぼしませんか?」


 女子中学生の彼女はクラスで浮き、ライングループでハブられ、嫌がらせを受けていた。


 同じく冴えないリーマンが言った。


「会社の上司がパワハラで困っています。社会をめちゃくちゃにしませんか?」


 彼は成績が悪く、上司や同僚からいびられていた。


 売れない地下アイドルもパチンコ好きの中年も社会を憂いていた。


 何にも楽しくない。人生辛いだけ。いじめや嫌がらせ、パワハラ、セクハラを受けて苦しんでいた。だからみんな思う、世の中をぶっ壊そう。


 オフ会は不平不満を言い合う方向に転換し、延々と社会を批判していた。


 食堂の日替わり定食を食べながら、理人は思う。ここに集まったのは社会の負け組ばかりなのだ。過去の栄光にすがり、今が不安定で将来を不安に感じている。彼らは人脈も希薄で助けてくれる人がいない。唯一、善という能力で集まった集合知。


 10人足らずの彼らは言った。地球を滅ぼそう。


 理人は白い猫と密会する。


「猫、どういうことだ?」


「仕方ないんじゃねえの」


「え?」


 考えが読める白い猫はかなり頼りになる。みんなの思考を読んでもらった。


「ここにいる奴らは凡人ばかりだ。それもいじめを受けてきた連中ばかり。奴ら凡人は、ある日、とんでもない能力を手に入れたんだ。凡人が超人になる能力。そんなものを手にしたら、復讐したいと思うのは当然じゃないか」


「復讐……」


 不穏なワード。


 オフ会で分かったことは、1000人規模の能力者たちは、誰もが、“悪”をやっつけるつもりではなく、むしろ、その能力を使って社会に復讐したがっている。白い猫はそう言った。


 理人は気持ち悪くなる。自己啓発オタクとして彼らの暗い話が生理的に受け付けられない。無理、疲れた、面倒くさい、とか。誰々の愚痴とか不満とか。暗い話ばっかり。社会の未来の明るい話が一つもない。みんながみんな、過去、こんなつらい経験をしました、と自慢話のように自虐ネタに走る。理人は吐き気がした。


 そもそも怖い。善なる能力者たちは社会を滅ぼすつもりなのだ。失礼ではあるけれども同じ人種ではないような気がした。

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