第5話 緊急

「では猫さん。要件を言います。私の言うとおりにしてください」


 日葵の要件はこんな感じ。


 一、地球上にいる善なる能力者に事情を話す。

 一、善なる能力者を海山市に集まる。

 一、全員で“悪”を倒す作戦行動をする。


「ちょっと待て、嬢ちゃん。善なるものはパッと数えただけで何百人もいた。それだけの人と会話しろと?」


「はい、そうです。あなたは猫なのですから」


 猫と言えば百万回生きた猫。という有名な物語がある。また、長寿の猫は猫又怪異となり多くの生涯を生きながらえる。猫は長寿の象徴だった。


 日葵は白猫の頭を撫でながら言う。


「時間と暇はたっぷりありますよね。私が住む海山市に能力者を集めてください。今からこの町を能力者の町にしましょう。素敵です」


 猫が慌てて逃げる。


「分かったよ。あんたにモデル『百万回生きた猫』なんて能力を授けられたら、たまったもんじゃねえ。言うとおりにするよ」


「ありがとうございます。それもこれも“悪”を倒すためです」


「はあー面倒くさい。そっちの兄ちゃんが交尾するだけで一発解決する問題を、なんで俺なんかが、おい、あんちゃん、インポテ○ツってやつかい?」


「今日初めて会った変な奴とそんなことできるか!?」


「兄ちゃん、猫界隈じゃ普通だぜ」


「猫と一緒にすんな」


「理人さんは童貞の優柔不断野郎なんです」


 横の日葵に痛いところを突かれる。う、たしかにそうだよ。


 結局、その日、猫によって届けられたメッセージは千通に及んだ。


 リココ星雲から降臨した海上日葵の中に眠る“悪”をやっつけるために開花した善。能力者たちは海山市に集合し、猫を中心にオフ会を開くことになった。


 三日もあれば全員に行き渡る手はず。順風満帆の作戦。


「では、三日後に。よろしくお願いします」


「よくそんな飄々としていられるな、日葵」


「地球の危機ですから。同じ地球人として頑張る次第であります」


 日葵は身を粉にして働いている。場合に至っては、理人との不順異性交遊をも辞さない覚悟。何が、彼女をそこまで突き動かすのだろうか。“悪”とは何で、善は何ができるだろうか。


「理人さん、ユダヤの教えにこんな言葉があります」


 彼女の雰囲気が変わる。続けて、


「善では意味がない。善行をしなさい」


「善行?」


「そうです。あなた方能力者の善は素晴らしいと思います。ですが、行動に移さねば意味がありません。私は自分のことを善だと思い、善行しています。どしたら“悪”を倒せるのか日々考えています」


 海上日葵は真面目だ。不運があると幸運を生み出そうとする。悪よりも善、善よりも善行。道徳心の塊のような女の子だった。


「ですから最悪の事態に備えて理人さんとイチャイチャラブラブしましょう!」


 前言撤回。彼女はただの思春期の女の子。ただ性に興味津々だけのよう。


 ずんずん理人のアパートに進む彼女に静止をかけた。


「待て待て、“悪”退治に協力するから今日はもう家に帰りなさい。お前の家はどこだ?」


「ないです。かといってホテルは高い。ならば理人さんのお家に同棲で候」


「おお~い」


 “悪”退治のドタバタコメディはまだまだ続く。

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