第3話 天才

「本題に入りましょう。理人様。これは真実です」


 コーヒーをずずずと啜り、部屋の中央で正座をする日葵。


「私の中に目覚めた“悪”とは、世界を滅ぼす存在です」


 SFの話だと思って聞いてほしい。リココ星雲から通信を受けた日葵は、彼女の中に“悪”を目覚めた。結果、防衛体制に入った地球は、“悪”を倒すために善ある存在を地球人にちりばめた。善とは、“悪”と対をなす超能力者。


 その中で、深海理人に与えられた善とは、“悪”の器と結婚すれば“悪”だけを封印する能力のこと。


「理人様は私の救世主であります。あなたの能力『“悪”を封印する力』があれば、私は他の善から命を狙われなくて済みます。さあ、早くファック(セ○クス)しましょう! いて!?」


「バカ。誰がそんな話を信じる」


 チョップした理人。彼女が無害だと感じられるからコーヒーを出しただけで、本当ならば警察に突き出すのも悪くない。意味不明の日葵に、理人はこりごりしていた。


「僕が君を助ける超能力者だって証明してくれ。もちろん行為なしでお願いする」


 電波系の言うことは聞かず、ずっと沈黙のまま聞き流すに限る。仮に、“悪”を秘めた日葵の登場によって地球が滅びるほどの大惨事になったとしても関係ない。電波とは無関係の距離を保ち、無視する。


 だから無難な会話に持っていこうと理人は考えた。この意味不明な女子は一時間も話せば帰ってくれるだろうと高をくくった。


「で、君の中に眠る“悪”は何をするんだ? 何ができるんだ?」


 コーヒーを机に置き、まっすぐと理人を見つめる日葵。


 彼女は“悪”をこう説明した。


「天才です」


「……天才?」


「天才とは太陽である。遠くに離れてみると多大な恩恵をもたらしてくれるが、近寄りすぎるとすべてを燃やし尽くしてしまう」


 続けて、


「彼らは3つのことを言った。ラビ・エリエゼルは言う。あなたの仲間の名誉をあなた自身のもののように大切にしなさい。すぐに怒ってはならない。またあなたの死の1日前に悔い改めなさい。また賢者たちの火にあたって暖をとりなさい。しかし火傷をしないように彼らの燃え盛る炭火に気をつけなさい。なぜなら彼らは狐のように咬み、さそりのように刺し、また蛇のようにシュルシュルと音を立てるからだ。彼らの言葉はすべて燃え盛る炭火のようだ。『アヴォート』(2章10節)」


 日葵は“悪”を、狐のように咬み、さそりのように刺し、蛇のように音を立てる存在だと表現した。


 宗教色の強い発言。理人は彼女がキリスト教の勧誘か何かだと勘違いした。今から怖い人に家に侵入され、金銭をねだられるのだ。しかし、日葵は理人の頭の中の考えを読み、否定した。


「違いますよ。善悪は、超能力者です。怖い人ではありませんし、ましてや、宗教家でもありません」

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