第13話起死回生

 幼馴染であり、家族同然の存在であるナリア=アラートが目の前で死にかけている。

 なんだこの状況……?

 俺は客観的に、今の状況を観てみる。殺されて地面に倒れているルーマ先生。腰が抜けたのか、顔が青ざめたまま尻もちをついているニーチ。

 不審者のするどい剣を、両手で抑えてているナリア。事が急すぎて、少し混乱するが、すぐに冷静になる。

 どうしてこんな状況なのに、こんなに自分は冷静で入られているのか……。

 多分、死体を見るのはこれが初めてじゃないからだと思う。だからこの中で一番冷静な俺は、今自分がするべき最適の行動を取らなくてはならない。

 何よりまず、ナリアを助けなくてはならない。でもどうやって?

 方法がわからない。さっきナリアにしたようなタックルを、コイツにもぶつけてやればいいか?

 いや、それじゃダメだ。それじゃあその場しのぎにしかならない。あの剣をなんとかしないと……。

 今ナリアが必死で抵抗しているこのすきに、解決策を出さないといけない……。

 あの剣を奪い取る?

 無理だ。男の俺では奪い取る力がない。

 俺は必死に辺りを見る。どこかにないか?

 この状況を打破できる、起死回生の一手が……。そこで、一つの物体が目に付く。割と大きめの石が、俺の足元に運よく転がっていた。

 これでいけるか……?

 もう時間は残されていない。こう迷っている間にナリアが殺されでもしたら、俺はこの先、生きていける自信がない……。

 俺はかがんで足元に転がってる手のひら二つ分ぐらいの大きさである石を拾うとそれを両手で持って、剣を持った不審者の頭上に思いっきり叩きつける。

 石を叩きつけられて不審者は、手に持っていた剣を地面に落とし、よろよろとよろけていた。

 今しかない。俺は不審者がよろけた一瞬で地面に落ちていた剣を拾うと、よろけていた不審者の胸あたりに思いっきり剣を突き刺した。

 ぐちゃりと肉を切り裂く生々しい音……。その音と同時に、ものすごい量の血が俺の体にかかる。

 刺された不審者は、何も言わずにバタンと地面に倒れた。そして倒れたと同時に、頭にかけていたフードも一緒に取れていた。

 俺はその不審者の顔を見た瞬間に、嫌な予感というのははどうして当たるのだろうと思ってしまう。

 砂埃のついた白髪。生気のない碧眼へきがんの瞳。まるで今日転校してきた誰かさんにそっくりだ……。

 これを見られるのは、ニーチ的にかなりまずいだろう……。俺は倒れている死体を運ぼうとするが、全然動かない。

 それもそうだ。今持っていた剣ですら、持つのは結構しんどかったんだ。

 それが成人女性の体なんて、持ち運べるはずがなかった。これは手伝ってもらうしかないか……。

 俺は地面に尻もちをついている、二人の同級生に目を向ける。一人は、長くて綺麗な茜色の髪の毛から全身にかけて血しぶきを浴び、燃えるような真紅の瞳から涙を流しているナリア=アラート。

 そしてもう一人は、顔中真っ青になりながら涙目で死体の方を見ているニーチハルクスタ。

 ナリアの方は動けそうにないな……。俺はニーチの方に顔を向けると。


「おーいニーチ。ちょっと来てくれ」


 そう呼びかける。俺の呼びかけに、ニーチはハッとして立ち上がるとゆっくり近づいてきた。


「あの……」


 何か言いづらそうに目を伏せているが、言いたいことはだいたい察した。


「今は話をする時間がない。とりあえず運ぶの手伝ってくれ」


「あぁ……はい」


 ニーチは生気が抜けたように生返事をすると、死体の肩に手を回し。


「どこに持っていけば……」


「じゃあついて来て」

 

 ズルズルと死体をひきづりながら、俺の後をついて来てくれる。そして、俺が森の中に入ろうとすると。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 まだ地面に尻もちをついているナリアに、呼び止められる。


「何処に……行くんだ?」


 涙声でそう聞いてくる。


「あぁ、この死体。見つかったらまずいだろ? だから埋めに行く」


 ナリアにそう言い残すと、俺とニーチは森の中へと足を進めた。

 

 




















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