第12話迫りくる死

「アルク、帰ろうぜ」

 

 いまだに目を瞑って手を合わせているアルクに、そう声をかける。


「ん? あぁ、終わったのか。長いから寝ちまったよ」


 あの姿勢で寝ていたなんて、器用な奴だな……。そんなことを思いつつ、帰りの帰路に着こうとすると、後ろから服のそでを引っ張られた。

 引っ張られた方へ顔を向けると、ニーチが何か言いたそうに私の顔を見ている。

 

「なんだニーチ? もしかして一緒に帰りたいのか?」


 そういえばニーチってどこにすんでいるのだろう?

 新しく家が建っている形跡けいせきも特になかったし、そもそも何処から来たのだろう……?

 私はニーチに色々と聞きたいことができたので、アルクと一緒にニーチとも帰ることに決めた。


「それで、ニーチって何処に住んでるんだ?」


 校舎の下駄箱で、そんな質問をする。そんな私の質問に、ニーチは。


「えーと、この近く……かな……」


 曖昧な応えを返してきた。この村はそんなに大きくない。学校の近くに家があるなんて当たり前だ。

 

「近くって、具体的に?」


「えーと……それは……」


 ニーチは視線を下に向けて、何も言わなくなってしまった。そんな私たちのやり取りを見ていたアルクが、横から口を挟んできた。


「おい。別に無理して聞くことでもないだろ。お前は気遣いもできないのか?」


 喧嘩売ってんのか、コイツ? 

 アルクの言い方に少し腹が立ったが、まあいいづらいのなら無理して聞くことでもないか……。

 

「ごめんなニーチ」


 一言謝り、私たちは校舎を出て行こうとしたところで、


「あ、ナリアたちじゃない。もう帰るの?」


 ルーマ先生に声をかけられる。


「うん。先生は?」


「あー私は特にようがないから、生徒たちを外で見送ろうかなって」


「そっか」


 そんなやり取りをして、校舎を三人で出て行く。校舎から数十歩離れたところで、ニーチにさっきとは別の質問をしようとニーチの方へ顔を向ける。


「それでニーチ。お前って」


 私はニーチに声をかけていた言葉が詰まってしまった。ニーチの顔は校舎に向いていて、その顔は尋常じゃないぐらい青ざめていたから。

 青ざめていたニーチは、


「お……あ……さん……」


 聞き取れないぐらいの小さな声で、何かを言っている。私もニーチが向いている校舎の方へと顔を向けると、その光景を見た瞬間に言葉が出なくなった。

 ルーマ先生のすぐ右後ろに、フードを顔まで被り、剣を持った不審者が立っている。

 そしてその不審者は、ルーマ先生の心臓部分に思いっきり剣を突き刺した。

 なんだこれ? 

 唐突に事が起こりすぎて、脳が追いつかない。今、ルーマ先生は殺されたのか? 

 なんで?

 どうしてこの村に剣を持った人間がいる?

 そんな疑問が次々浮かんでくる。

 しかし、そんな疑問も次の不審者の行動で一気に吹き飛んだ。

 不審者はルーマ先生に刺した剣を引き抜くと、私の方に顔を向け、剣を頭の上に振りかぶりながら突っ込んできたのだ。

 近くでその光景を見ていた他の生徒たちは、泣き叫びながら何処かへ走ってしまい、残されたのは私たち三人だけだった。

 しかもその三人の中の、ちょうど私だけをピンポイントで狙ってきた。不審者は頭上に振りかぶった剣を、私の顔に向けて切りかかってくる。

 その剣を、真剣白刃取りのように両手で抑える。どうしてこんな土壇場どたんばでこんな神業が使えたのか、そんなことを考える余裕もない。

 押さえつけた剣は、私の手汗でどんどん滑って行く。この状態は、そう長くは続かない。

 この不審者はあまり力が強くないが、それでも私よりは強い。このままだと、確実に脳天を真っ二つにされる。

 やばい。死ぬ……。

 

 

 





















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