第8話ペア
「よ、よろしく……」
私の差し出した手を、転校生は優しく握ってくれる。
「なぁ、ニーチって呼んでいいか?」
「あ、うん。いいよ……」
まだ緊張しているのか、ニーチの視線はすごく泳いでいる。人と喋るのに慣れてないのか、それとも人が苦手なのか、慣れるまでに時間がかかりそうだ……。
「私のこともナリアでいいから」
「よ、よろしくね。な、ナリア……」
「うん! よろしく」
私たちは、強く握手を交わす。
「--ケッ。なんだよ、さっきは転校生とかどうでもいいみたいな感じだったくせに」
頬杖をついていたアルクが、そんな悪態をついてくる。なんかコイツ、日に日に性格悪くなってないか?
「なんだよアルク? 何か不満でもあるのか?」
「別に」
そのままアルクはぷいっとそっぽを向いてしまう。まあ今はコイツのことなんかどうでも良いか……。
「みなさーん。1時間目は体育ですから、早めに着替えて校庭に行きましょうね」
パンと手を叩いて、ルーマ先生は生徒にそう指示を出す。
「じゃあ行こーぜニーチ」
私はニーチの手を無理やり引っ張って、女子更衣室に連れて行く。更衣室に連れてこられたニーチは、あたふたとしている。
「あ、あの、今から何をするの?」
「ん? さっきもルーマ先生が言ってただろ。私の一番大好きな体育の授業だよ」
私がそう説明するも、ニーチはまだ理解できていない様子だった。まあ、とりあえず着替えさせて校庭に連れて行けばなんとかなるだろ。
私は早速持ってきた体操着に着替え始める。ニーチは私の着替えている様子を、何も言わずにじっと見ていた。
「お前……着替えは?」
「え……と。服は今きてるのしかなくて……」
そう言って、ニーチは汚れたシャツを引っ張る。まあ転校生だし、それもそうか……。
「じゃあそのままでいいよ」
体操着に着替え終わった私は、着ていた服を体操着袋の中に詰め込んで更衣室を後にする。
それに続くように、ニーチも私の後ろをついて来る。校庭にクラスメイト全員が揃うと、ルーマ先生は。
「じゃあ二人一組になって体操をしましょう。誰でもいいので好きな人とペアを組んでください」
そう指示を出す。いつもならアルクと二人でやっているのだが……。
「え、えーと……」
キョロキョロと周りを見回すニーチの姿を見て、私はニーチに声をかける。
「なぁ。二人一組やろうぜ」
ニーチにそう声をかけると、ガシッと誰かに肩を掴まれた。振り向くとそこには。
「おい、なんで裏切ろうとしてんだよ」
アルクの姿があった。
「裏切るも何も、お前と仲間になったつもりなないんだが」
「いやお前、体育のペアはいつも一緒にやってただろ」
「それはこの前までだ。今日からはニーチとやることに決めたから」
「は!? 俺のペアはどうすんだよ」
「先生とやっとけよ」
私はアルクの手を振り払うと、ニーチに近づく。
「じゃあ早速やろうか」
「え、でも、その……いいの? 私は別に先生とでも……」
「いいのいいの。さ、あんなやつほっといて、まずは……」
私が体操のメニューを確認しようとすると、アルクが私の前に立ち。
「俺が転校生とペアを組む」
そんなふざけたことを言ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます