第21話 付与もしたおかげで高く売れた

まだ何も付与をしていないスリングショット∞を一つ、アイテムボックスから取り出す。

そして今回は、それに「弾速上昇」と「追尾効果付与」の2つをかけた。


どんなに威力が高くても、モンスターの方が早くて弾が当たんないんじゃあ意味がないからな。

こういう敵相手には、弾速を上げる付与の方が効果的と言えるだろう。


スリングショットのゴム部分を目いっぱい引っ張っておきつつ、「第6のイーグルアイ」で敵の位置を把握する。

再び探知範囲内の端っこにソイツがかかった瞬間……俺は引っ張る手を離した。


すると……魔力弾は直角に曲がるような軌道を描きつつ、目にも止まらぬ速さで飛んでいった。

そして、ちょうど偏差射撃になるような形で狙ったモンスターに直撃した。


急いで「第6のイーグルアイ」上の反応が消えた地点に向かって飛ぶ。

なんとか俺は、今倒したモンスターのものと思われるドロップ素材が落下していくところをキャッチすることができた。



……結構、強引に追尾してくれるもんなんだな。

流石に弾道が90度変わったのにはビックリしてしまったぞ。


でもこれならノーコンな人が扱っても安心、などと思いつつ俺は移動を開始した。

そのまま俺は、特にモンスターと遭遇したりすることはなく家の近くまで帰ってきた。





換金所に着くと、俺は残りの一つのスリングショット∞にも「弾速上昇」と「追尾効果付与」をかけ、それから列に並んだ。


「おう、北野君か。今日はどんなアイテムを売りに来たんだ?」


店の人にそう言われ……俺はスリングショット∞三つを籠の中に入れた。

ちなみにレベルブーストは自分用のつもりなので、ここで売りには出さない。


「ほうほう。これは……ん、待てよ」


査定の最中、店の人は付与に気が付いたのか、そう呟いたっきり手を止めた。


「北野君。もしかしてお前……これに何か付与したのか?」


そして店の人は俺に、そう聞いてきた。


「はい。一つには『漆黒付与』と『追尾効果付与』を、残りの二つには『弾速上昇』と『追尾効果付与』をかけました」


「な……なんてことを!!」


すると……俺は店員に、思いっきりドン引きされてしまった。



それを見て……俺はかなり不安になった。


もしかして……俺何か余計なことをやってしまったか?

付与をかけたら商品価値が上がるとばかり思っていたが……逆に、俺が粗悪な付与をかけたことで本職の付与術師が手を付けられない状態になって、商品価値を落としてしまったとかなんじゃないだろうか?


どうすべきか。

少し考えた末……俺は例の超高速モンスターのドロップ素材を取り出し、店の人に渡してこう言ってみた。


「追尾効果付与、一応これを狙い撃ちできるくらいの精度はあるんです。それでも……付与をかけたのは、マズかったですか?」


もしかしたら店の人は、これを倒したって実績を見せたら「追尾効果付与も捨てたもんじゃないな」と思ってくれるかもしれない。

そう思い、俺は説得材料のつもりでその素材を取り出したのだ。

だが……


「ソニックホーネットか。アイテムに付与がかかってるってだけでも驚きなのに、付与効果そのものも化け物だな……。ところで、マズかったって何の話だ?」


どういうわけか、店の人にそう聞き返されてしまったのだ。


何の話って、それは……


「いやその、付与の説明をしたら、思いっきり顔を顰められてしまったので。俺の付与が粗悪すぎて、却ってこれを更に加工する付与師にいい迷惑だったのかなと……」


「付与が凄すぎて引いてしまったんだよ!」


説明すると、そう思いっきりつっこまれてしまった。


「北野君が付与術も使えるってのは、百歩譲って驚かないとしても……何でお前、当然のようにアイテムに二重付与をかけているんだ! アイテムやアーティファクトに付与をかけるのは至難の業で、一重付与ですら成功例は世界に数件しか無いというのに……」


店の人は続けて、そうまくし立てたのだった。


……あれ。

これもしかして、全部杞憂だったのか?


「あの……じゃあこのスリングショット∞、通常より高値で買い取っていただけるんですね?」


「これだけのことをやっておいて、気にするのはそこかい。ま、北野君らしいっちゃらしいな。スリングショット∞は、通常なら一個100万円で買い取るところだが……3つで計800万円で買い取ることにしよう」


……倍以上じゃねーか。

まさかそこまでとはな。


安心したような、困惑したような気分のまま……俺はカウンターを離れ、換金所から出ることとなった。

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