第22話 陰陽師(的な何か)をやってみた

次の日。

俺は会社帰りに、オフィスビルの向かいのスーパーに立ち寄った。


別に今日は、週に一度の買い物の日という訳ではない。

今日は、全く別の理由でスーパーに寄っている。


というのも……俺は昨日、換金所の帰り際に店の人からこんなことを言われていた。

「お前なら、いろんな物にそれっぽい付与をかけて対モンスター用の道具にすればそれだけで一儲けできるぞ」、と。


いくらなんでもそんなので金になるのか、と疑問には思ったが……実際、掃魔集会のリーダーやナビ役の人にソロ活動を勧められてから、素直にやってみた結果大儲けできたんだしな。

今回も、言われたアドバイスはとりあえず試してみる価値があるんじゃないかと思ったのだ。


普通にモンスターを倒してアイテムを作って売るのと、どっちがより採算が取れるのかは分からないが……そんなのは、実際に試してみてから実際に効率の良い方に専念すればいいだけの話。


とりあえず俺は今日、付与術をかけるベースとなる何かを買って帰ろうと思っている。





店の中で……俺は2つのコンセプトを基に、付与術をかける対象を探していた。


1つ目のコンセプトは、「量産可能であること」。

そしてもう1つのコンセプトは、「対モンスターだと有効だが、対人間だと武器として使い物にならないものを作る」ということだ。



ただの物に付与術をかけたところで……その性能は、まず間違いなく錬金術で作ったアイテムやアーティファクトには劣る。

つまり、単価には期待できないのだ。


とすると……今までのやり方以上に稼ごうと思ったら、質より量で勝負することは必須になる。

だから最初のコンセプトは、「量産可能なものを作る」ということに設定した。


だが……量産するとなると、そうして作ったものはおそらく一般家庭に普及することになる。

とすると、そんな物が人相手に高い殺傷能力をもっているというのはマズい気がするのだ。


例えば……もし包丁に「飛ぶ斬撃」やら「炎の斬撃」やらを付与すれば、モンスター相手に使える武器になりはするが。

同時に、それを手にした人間に魔が差して傷害事件やら放火事件が起きるリスクも発生することになる。


俺が作ったもので、そんなことが起きたら後味が悪い。

だから、可能であれば対人間には武器として使い物にならないものを作りたいのだ。



店内を奥まで進み、隅っこに位置する百均コーナーに入る。

そして、何の気なしに文房具コーナーを通り過ぎようとした時……俺はある物を見て、面白そうな案を閃いた。


俺が目を付けたのは、折り紙。

もしかしたら……これを使って、陰陽師的な・・ことができたりするんじゃないだろうかと思ったのだ。


折り紙なら数百枚入りが100円とかで売ってあるので、「量産可能」というコンセプトにはぴったりだ。

そして、付与する内容を選べば……モンスターにだけ武器として有効なものを作るのも、不可能ではないだろう。

これ、今回の目的にぴったりな気がする。


ステータスウィンドウを開き、「名人級付与術」をタップして付与効果一覧を見ると……一覧の中に、「形代化かたしろか」というそれっぽいものがあった。

これ……ちょっとやってみるか。

そう決めた俺は、無地だが枚数は多めの折り紙を手に取り、レジに並んだ。



折り紙を買うと、俺は家まで一直線に飛んで帰ってきた。

そして机に向かうと……俺は買ってきた折り紙を開封して取り出した。


まずは折り紙全体に対し、「形代化」を付与する。

すると全ての折り紙が一瞬ピカッと光り、付与がうまくいったことが分かった。



さて……これからどうしたものか。

俺は付与術をかけた折り紙を前に、少し頭を悩ませた。


というのも……俺ぶっちゃけ、陰陽師そんなに詳しくないんだよな。

「形代」という特殊な紙で人形を作ったら「式神」とやらになって、役に立ってくれるくらいの知識はあるが……それ以上具体的なことは何も知らないし、何ならこの知識さえうろ覚えで間違ってるところがあるかもしれないくらいだ。


なんとなく「陰陽師って良さそうだな」と思ってここまで進めてはみたものの、ここから何をどうすればいいのか。

まあただ悩むんじゃなく、手を動かしながら考えた方がいいんじゃないかと思った俺は、とりあえずこの折り紙で何か折ってみることにした。


まずは折り紙といえばド定番の、鶴でも折ってみるか。

そう思い、作ってみると……完成した直後、鶴が一瞬光り輝いた。


……何かできたのか?

そう思い鑑定してみると、こんな説明文が出てきた。


─────────────────────────────────

・鶴(オリジナル式神)

飛ばすと上空からモンスターを探知してくれる。モンスターの危険度も把握することができる。

─────────────────────────────────


……なるほど、鶴は探知系か。

その手のスキルを持ってない人からすれば、ありがたいのかもな。


試しに実際に上空に飛ばしてみると……確かに、鶴を通じてレーダー探知のようにモンスターの座標を把握することができた。

探知範囲の直径が「第6のイーグルアイ」の6割程度しかないのは懸念すべきところだが、まあ無いよりはマシと言えるとは思う。


……どうやらこの方針で進めていって問題は無いようだ。

他にも何か作ってみるか。

俺はスマホで折り方を検索したりしつつ、5種類のものを追加で作成した。


それらに鑑定をかけると、こんな説明文が出てきた。


─────────────────────────────────

・手裏剣(オリジナル式神)

投げてモンスターに攻撃できる。軽い軌道補正能力あり。


・エクスプレス(オリジナル式神)

モンスターを倒すよう念じると、空中を自走してモンスターに突進する。完全追尾機能つき。手裏剣より威力は劣るが射程は圧倒的に長い。


・人形(オリジナル式神)

所有者がダメージを受けた際、身代わりになってくれる。1個あたり250のHPを肩代わりする。


・プテラノドン(オリジナル式神)

挑発用式神。モンスターの意識は完全にこれを追いかける方に向くので、その間に逃げるなり大技の準備をするなりといった使い方が可能。


・ちょうちょ(オリジナル式神)

一匹あたり400のHPを回復する。外傷なら軽い欠損までは完治。

─────────────────────────────────


手裏剣やエクスプレスは、実際に使ってみないことにはどれくらい役に立つのか分かりそうにないな。

というか……俺新幹線を折ったつもりだったのに、名称エクスプレスなんだな。

まあいい。


人形は……今の俺のHPは5520なので、23個ほど持っておけばぎりぎり即死する程度の攻撃を一回無傷で受けられる計算になるな。

1個だけじゃあ大したことはないものの、かさばらないので大量に持参することを前提とすればいい働きをしてくれそうだ。


プテラノドンは……何秒くらい挑発できるのかで評価が変わってくるな。

まあこれも週末に試してみよう。


ちょうちょは、俺は基本的に自分がケガするリスクのある戦いは避けているので実戦では使わないが……まあ回復量が明記してあるし、それを基に換金所の人に判断してもらうことにしよう。


そんな風に、俺は式神(?)に関して方針を決めたのだった。

俺は各式神を5個ずつ折って、次の週末に備えることにした。

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