ミライスケジュールノート
フィーカス
ミライスケジュールノート
自分の部屋に戻ると、机の上に一冊のノートが置いてあった。中を見ると、まるっこくてかわいらしい文字が書いてある。
「今日のユウ君は、夕方買い物に出かけ、豆腐、ネギ、卵を買ってきます。夜は一人でのんびり過ごします。 マユミ」
ノートの文を読んで、ため息をついた。またか。まったく。
このノートは、つい最近僕の机の上に置かれるようになったノートだ。僕が帰ってきた後の予定が勝手に書き込まれており、おおよそ僕はそのノートに書かれてることの通りに行動することになる。
ちなみにどうでもいいことだが、僕はこのノートを「ミライスケジュールノート」と呼んでいる。ネーミングセンスは気にしないでほしい。
やれやれ、それにしても、どうして夕方出かける予定があるのを知っているのか。少々の不気味さと不満を抱えながら、僕はカバンを投げ出した。今日は大学の講義が午前中までだったので、学食で昼食を取ってすぐさま帰ってきたところだ。
ゲームでもしようと思ったが、あまり乗り気にならない。しばらくベッドで横になってぼーっとした後、投げ出したカバンを手に取り、外に出ることにした。
次の日、大学を出るころには、もう日がすっかり傾いていた。講義が四限まであったため帰るのが遅くなってしまった。
さて、部屋に戻ると、いつも通り机の上にミライスケジュールノートが置いてある。今日の内容はこうだ。
「今日のユウ君は帰りが遅くなるので、夕食にカレーを食べます。明日は朝が早いので、日が変わるまでには寝ます。 マユミ」
今度は寝る時間を指定してくるのかよ。そんなことに従うと思っているのだろうか。
とはいえ、明日の朝は6時起きなので、恐らくそうなるのだろう。やれやれ、と思いながら僕はキッチンに向かった。
休日のある日のこと。さすがに休みの日までは部屋に入ってこないのか、ミライスケジュールノートは更新されていなかった。
最初の頃は不気味だったので何度か捨てたのだが、捨てるたびに新しいノートが置かれるのだ。多分無駄だと思い、それからは放置することにした。
更新されないとそれはそれで寂しいのだが、勝手に部屋に入られるよりはマシだろう。
せっかくの休みなので、大学の友人と遊びに行くことにした。どうせゲームセンターかカラオケだろうが、何もしないよりはマシだろう。
さて、夕食まで食べて帰ってきたところ、やはりノートが机の上に置かれていた。
「今日のユウ君は友達と遊びに行っているので、帰りが遅くなります。夕食は済ませているので、ゲームをしながら夜食のおにぎりを食べます。 マユミ」
本当、ここまでくるとさすがに予知能力でも持っているのかと勘ぐってしまう。ちょうどシャワーを浴びた後、夜通しゲームをしようと思っていたところだ。
それにしても、夜食におにぎりとは……まったく、僕が料理出来ないことぐらい知っているだろうに。
しかし、このノートに書かれていることに従ったところで何か起こるわけでもないし、従わなければ何かあるわけでもない。実際、この通りに行動しない日もあったが、特に何もなかった。別に従う必要なんてないのだ。
とはいえ、今からゲームをしようと思っていたところなので、結局はノートの通りになってしまう。なんだかもやもやしながら、僕はシャワーを浴びに行った。
その後も、僕の留守を見計らってはミライスケジュールノートに僕が取るであろう行動が書きこまれる。別にそれは構わないのだが、勝手に部屋に入られるのがすごく気になる。常に部屋は掃除しているものの、やはり勝手に入られるのは気分が良くない。
今日も留守中に勝手に入られ、ミライスケジュールノートが更新されている。
「今日のユウ君は、出かけた時に途中で見つけたケーキ屋さんに行って、ケーキを買ってきます。 マユミ」
あまりにもイライラしたので、本人に直接文句を言うことにした。
「母さん、いい加減人の部屋に勝手に入るのやめて! ノートにやってほしいこと書くのも! 誕生日祝ってほしいなら直接言って!」
「だって、ユウ君こうでもしないと買い物も手伝いもしてくれないでしょ?」
僕の母マユミは、こういう変なことが好きなのだ。
あと、20を超えた息子に君付けで呼ぶのもやめてほしい。
これだから実家暮らしは嫌なのだ。近くにストーカーがいる気分になる。
ミライスケジュールノート フィーカス @sacrifice
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます