9月
夏休みが明けて、秋になったからといい、直ぐに涼しくなるわけではない。
夏から変わったことと云えば、虫の音が蝉から鈴虫や蟋蟀、螽斯になったことと、木の葉の色が、段々と黄みがかってきたことくらいのものだ。
ただ、流石、読書の秋というだけあって、本が読みやすい季節ではあるなと思いながら、
最近は毎日のように教室の隅で本を読んでいる。
考え事をするか本を読んでいないと、花火大会の日の玲桜の言葉を思い出してしまいそうで恐かった。
出来ることなら、胸の奥の方へ隠してしまいたかった。
何故自分がそう思っているのかは分からないが、その不明瞭な恐れの正体を見出すことはしなかった。
そんなことをしても現実は変わらないみたいで、玲桜本人を目の当たりにすると、嫌でも思い出してしまう。
仕方がないので、幽霊のように実態のない現実に少しは目を向けてみようかと、珍しく登校している─最近は病気の所為で休み勝ちだった─玲桜の席へゆっくりと歩いてゆき、今週末あたりに何処かへ出掛けないかと誘うと、嬉しそうに行きたいと明言した。
それから玲桜は一日中、浮き足立っているように見えた。
僕、今まで友達と遊びに出掛けたことが無かったんだ。
と、出会い頭に玲桜が言って来たので、その日は玲桜のやりたいことを出来る限りやることにした。
病気の所為だろうか、玲桜の手足は少し押しただけで折れてしまいそうなくらい細かったので、周りを歩いている人達にぶつからないように、少し注意を向けることにした。
先ずははじめに映画を見たいと言ったので、電車に乗って移動した。
幸い、車内は空いていた。
映画に着いて見たい映画を探すと、恋愛映画を指差して此方の様子を伺ってきた。
特に恋愛などに興味は無かったが、玲桜の要望で一緒に見ることになった。
俺はずっと寝ていたおかげで内容は殆ど覚えていないが、玲桜が、
僕、知り合いの女の子と話したこと無いんだ
と呟いたので、少し同情した。
次に、最寄りのファストフード店に入り、昼食を済ませてから、カラオケに行った。
ずっと部屋に籠りきりで歌う機会があまり無いと言っていたので、笑い飛ばすつもりだったのだが、予想を遥かに超える上手さで、驚愕した。
そこで二時間ほど時間を潰し、これで最後かなと大きくはない遊園地で夕方まで遊んだ。
ジェットコースターなどを避けると、子供向けのアトラクションばかりになるらしい。
観覧車に向かい合わせになって座り、遠くに沈んでいく真っ赤な夕日を静かに眺めた。
雲が疎らに散り、直視すると、日中ほどではないが、目を細めなければならないくらいには眩しかった。
夕日が観覧車内を暖かい橙で照らした。
俺は頂上に着いたところで携帯電話をポケットから取り出し、柄にもなく、女子のように
夕日の写真と、自分達の映る写真を撮った。
群青に嗤え 白夜 @byakuya11
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