8月

することも無く、家の中で暇を持て余していた。

長時間休まずに稼働している冷房の前で、船を漕ぎかけていると、いきなり、机上の携帯電話の着信音が鳴った。

友人が少なく、鳴る筈は無いと思っていたので、心臓が飛び出すほど驚いた。

恐る恐る携帯を手に取り電話に出ると、その電話の主は玲桜だった。

俺も玲桜も部活動には所属しておらず、お互い暇を持て余していたので、他愛のない会話を交わした後、直ぐに何処かで落ち合おうと約束した。

特に持って行く物も思い付かなかったが、夜に花火大会があることを思い出し、二人で見れるかと少し心を躍らせた。

自転車を十分ほど走らせ、待ち合わせていた河川敷に着いた。

玲桜は既に着いていた。

思えば、夏休みに入ってから初めて遊びに出かけるな、と同時にぽつりと漏らし、顔を見合わせて笑った。

それからはあっという間だった。

待ち合わせた河川敷からは離れず、くだらないことで笑い、小学生みたいにはしゃいだ。

夜になり、少し遠くから花火の音と光が見えた。

俺達はそこから、小さな花火を二人で横に座って眺めた。

夏の夜空に花火が幾つも打ち上げられた。

最後の大きな花火が上がり、それまで以上の迫力と共に、夜の静寂が訪れた。

その余韻に浸るように、お互い暫く黙っていた。

花火の煙で星が見えないので、辺りがあまり見えない。

そろそろ帰ろうかと思った矢先、不意に隣を橙色の明かりが照らした。

ふと横を向くと、玲桜が持っていたらしい線香花火に火を灯し、此方を見て微笑んでいた。

その笑顔がなんとも儚げで、今にも消え入ってしまいそうだった。

悲しくもないのに涙が出そうで、慌てて言葉を探した。

やっと言葉が見つかり、再び横を向くと、

一緒に線香花火、やろうよ

と、玲桜が先に話しかけてくれたので、どこか少しほっとした。

そのまま無言で花火をしていると、玲桜が唐突に語り始めた。

その言葉に初めは驚いたが、徐々に納得していった。

そして、最後の線香花火に願いを込めた。


玲桜と少しでも長く一緒にいられますように


出会ってまだ数ヶ月なのにそう願うのは、果たして変なことなのだろうかと、下らない戯れ言を添えているうちに、線香花火の火は落ちてしまった。

二人で見た最初で最後の線香花火は、自分の人生の中でこれ以上無いのではないかというほど美しく輝いていた。


実は僕、生まれつき病弱で、医者から長く

は生きられないと言われているんだ。

ついこの間、余命があと半年だって言われ

た。

だから、今日一緒に花火が見られて本当に

良かった。

ありがとう、僕の友達になってくれて。

今日のこと、絶対に忘れないよ。

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