砂の道
「風が出てきたな」
木枠のガラス窓から外を見た白髪まじりの男は、誰に言うでもなくそうつぶやいた。
「そうですね、雲の流れも速くなってきたようですし」
若い男は答えたが、男は耳を貸すことなく、けわしい表情で立ち上がり、扉を開け外へと出ていった。
風が吹くたびに窓がカタカタと音を立て、ときおりピューというすきま風の音が静かな室内に響きわたる。
男が扉を開け足早に戻ってきた。かと思うと、今度は無言で2階へ上がっていき、そしてすぐに戻ってきた。
「さっきからいろいろ試していたんだが、とうとう通信設備がいかれたらしい。仕方ないから、サトル、オレはこれから町まで行って修理の部品と予備の機械を取ってこようと思う。今出ればまだ砂の道が繋がっているはずだから、島を出られるはずだ。波もそれほど高くはないだろう。次に戻ってこれるのは…」
男は歯車が複雑に組み合わさった球形の道具をカラカラと回し、目盛りの数字を見て一瞬考えていたが、
「明日の朝か」
すぐに答えを出した。
「これからですか?」
「ああ、できれば夜はここにいたいが、天気が荒れるのは明日からの予報だから、今晩はまだ大丈夫だろう。サトル、オレが帰ってくるまで少しあるが、それまでここを頼めるか」
「わかりました。やってみます」
「いい返事だ。じゃあ、あとは頼むぞ」
男は机に向かい散らばった書類やら引き出しのものやらをリュックに雑に詰め込み、壁にかけてあった外套をひっかけ外へ向かおうとしたが、急に思い出したようにサトルの方を振り向いた。
「万が一何かあったら、何が何でも自分の身を守るんだぞ。余計なことは考えるな。いいな」
「はい、わかってます。お気を付けて」
男はうなずき扉を開け足早に去っていき、サトルも続くように外に出た。
「お気を付けてー!」
顔に風を感じながらその後ろ姿を見送り、ふと思い立って建物の外側を見て回ることにした。大きな岩を隙間なくいくつも積み重ねてできた建物で、表面はとてもなめらかだ。その岩をなでるようにしながら建物をぐるりと見て回ったが、特に変わりはない。
「よし、どこにも問題はなさそうだ。これならよっぽどの嵐が来ないかぎり大丈夫だろう」
入口に戻り半分開いたままの扉から中に入ろうとした瞬間、サトルは強い違和感を感じ反射的に足を止めた。そして自分の目を疑った。
以前にも似たような違和感を感じたことがあったが、今度はそんなあてにならない感覚の話どころではない。誰もいないはずの部屋の中に、見慣れない服を着た少女が倒れていたのである。そして体全体がぼんやりと光っているような気がしたが、さすがにそれは目の錯覚だろう。
誰だ…。いったい、いつどうやって入り込んだのか。しかもなぜ倒れているのか、いや、寝ているのか?
唖然として立ちつくすサトルの視界の中、少女はぱちりと目を開け、ゆっくりと上半身を起こし、口を開いた。
「…ここはどこ?」
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