竜ヶ埼灯台
橋を渡り終えた先の広場が駐車場になっていて、10台ほどの車が停められるけど、今は1台の青い車があるだけ。あと広場の脇にもう1台、役場の名前がペイントされた白い車が停めてある。
ここからは緑の丘が盛り上がり、木を砕いたチップが敷かれた一本の道が、ずっと先まで続いている。道の脇に『竜ヶ埼灯台コッチ→』という看板が立てられ、一緒に『喫茶・軽食』という札がぶら下がっている。
自転車を置き丘を登っていく。なだらかに見えた道は、思ったより急で、駐車場がどんどん小さくなっていく。海も遠くまでよく見えるようになってきた。
1匹の赤いトンボが、わたしの後ろから道の先へ向かって飛んでいった。それに続くように、2匹、3匹と数を増やし、次々に追い越していく。顔の真横を飛んでいくものは、こちらをじろりとにらんでいくように感じられて、すこしびっくりする。そして大きくふくれ上がったトンボの群れは、そのまま空を舞うちりのようになり、すぐに消えて見えなくなった。
丘を登りきると、そこは島の半分を取り囲むように盛り上がった地形の縁になっていて、島全体を見渡すことができる。今日はわたし以外誰もいないみたい。なだらかに盛り上がった丘がぽこぽこといくつも見える。
一面を覆う草花の緑色と海の青色のちょうど境界線、島の先端部分に灯台が見えて、その白と黒の横縞模様は、主張しすぎることはないけど、景色にとてもよく映えていた。
びゅうっと一陣の風が吹き、斜面に沿って草花をなぎ倒していった。まるで生き物が飛び去っていくように一本の道ができ、丘をかけ上がり、かけ下り、やがて灯台の手前で渦を巻いて消え去った。
空にはいつの間にかねずみ色の雲が浮かんでいた。時おり太陽を隠すように流れ、緑の丘に影をつくっている。
『竜ヶ埼灯台』。たどり着いた灯台の入口、敷地を囲う白くて低い塀にはめ込まれた黒いプレートに金色の文字で書かれてる。横には灯台の成り立ちが書かれた看板があり、それによると、かなり昔に外国人技師の設計により建てられ、唯一の有人灯台として現役で使われているということだった。煉瓦造りの灯台で、壁が白と黒のペンキで塗られているとも書いてある。灯台を見直してみると、表面はでこぼこしていて、なるほど、煉瓦が積まれている様子がよくわかった。
灯台の後ろ側は塀を隔てて地面が突然切れ落ち、青空しか見えない。危ないから端には行っちゃいけないと子供の頃からずっと言われてきたけど、どんな風になっているのか見てみたくて、おそるおそる近づいて下を覗いてみると、断崖絶壁が島の形に沿って続き、青黒い海から生まれた白い波が、岩がむき出しになった崖に激しく打ち寄せていた。
そして吹き上がってくる風にのって、荒々しい波の音が耳に入ってきた。
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