岬にある喫茶店

 わたしがここにやってきたのは、この灯台が目当てじゃなくて、すぐそばに建つ2階建ての建物、その1階にある喫茶店。白く塗られた木の扉には、手作り感あふれる看板がかかっていて『喫茶 竜ヶ埼 −coffee & snack−』と書いてある。実はこのお店は2年前にわたしのおじさん、マサトおじさんが始めたお店。看板もわたしが海岸で拾い集めてきた木を飾りにして、おじさんといっしょに作ったもの。不格好だけど、貝殻もはめ込んで、それが太陽の光を反射してきらりと光り、それなりにいい味を出してると思ってる。何よりおじさんが気に入ってくれたのが嬉しかった。


 この建物は本当は灯台の施設で、灯台守とうだいもりとよばれる職員さんが寝泊まりする場所なんだけど、1階のスペースがあまっていたので、そこをおじさんが借りてお店を開くことになったらしい。

 コーヒーの味はまだわからないけど、ここからの眺めはすごくいい。芝生の生えた庭から海が一望できるのは当然のこと、お店の中からも海がよく見える。海の見える喫茶店ということで、雑誌にもよく載るそうだ。それがおじさんの自慢のひとつ。あのさえないおじさんにしては、なかなかいい場所を見つけてきたものだと思う。


 扉を開けるとカランカランと鈴が鳴り、部屋の中に響きわたる。

「こんにちはー。おじさんいる?」

「ミキちゃん久しぶり」

「あ、こんにちは」

 カウンター席から声をかけてくれたこの人は、灯台守の、たしかユウイチさん。ここに住み込みで働いていて、暇なときはよくお店にいるので、すっかり仲良くなった。

 そして、奥にいたマサトおじさんも振り向いた。

「ああ、ミキちゃん。いいところに来た、ちょっとこの下を持っててくれないかな」

「いいよ。…こうでいい?」

 それは夏を告げる竜ヶ埼祭りのポスターだった。地元の人はたんに灯台祭りと呼んでいる。毎年、夏至の日から数えて2回目の満月の日に開催されるお祭りで、島の入口から灯台までの一本道は明かりが灯され、灯台は特別にライトアップされて、周りは地元の人たちが手作りしたキャンドルで飾られる。わたしも何度か来たけど、丘の上から続く光の一本道、そして夕方から日が落ちて空が暗くなるのとは対象的に光がだんだん強く、きらきらと輝くようになり、とても幻想的な雰囲気になってきて、それこそ時を忘れるとはこういうことなんだと思う。

 けれど地元の人以外にはあまり知られていないので、おじさんや役場の人たちが中心になってポスターを作ったりホームページを作ったりしてアピールしてる。わたしは静かな雰囲気が好きなんだけど、大人的には人がたくさん来てくれるほうがいいみたい。

「うん、ありがと。これでよし、と。それにしても、こんな時に来るなんて珍しいな」

「天気がよくて来ちゃった」

「ははは。相変わらずだな。それで、おばあちゃんの調子はどうなんだい?」

「だいぶ良くなったから、もうすぐ退院できるって」

「それは良かったじゃないか」

「でも、前もこんな感じですぐにまた入院しちゃったんだけど、ほんとにいいのかなぁ」

「医者が大丈夫だって言ってるなら、心配しなくてもいいんじゃないかな。今日もアイスココアでいいかい?」

「汗かいちゃったからおかわりもね」

「はいはい」

 窓際の席に座りひと息つくと、木の椅子のひんやりとした肌触りがとても心地よかった。

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