竜ヶ島

 午前中で授業が終わり、学校から帰ったわたしは、家の鍵を開けかばんを放り投げると、帽子と水筒を持って制服のまま再び自転車にまたがった。

 息を切らしたどり着いたのは、おばあちゃんの入院している町はずれの高台の病院。ひたいにうっすらと汗をかいているのが自分でもわかる。

 コンクリート造りのひんやりとしたうす暗い通路を歩いていると、四角い窓枠から真っ青な海と竜ヶ島の風景が目に飛び込んできて、その眺めはうっとりするくらいきれいだった。

 病室に入るとおばあちゃんはぐっすり眠っていて、その穏やかな寝顔を見ているととても安心した。お医者さんによるともうすぐ退院できるみたい。しばらく起きる様子もなかったから、何か必要なものがあったら連絡してもらうように置き手紙だけして、病院を出てきた。


 このまま家に帰るのは何だかもったいなくて、さっき通路から見えた竜ヶ島を目指してペダルを踏み込んだ。

 いつまでも続くんじゃないかと思う雨季も終わりに近づき、久しぶりの高い青空がなんだかとても嬉しくて、知らないうちにペダルをこぐ足に力が入ってしまう。自転車は軽快に坂道を下っていく。


 町の中心にある商店街を抜けると、島が少しずつ大きくなり、そのシンボルでもある灯台が見え隠れしていた。

 海までの一本道を下った先には砂浜が広がっていて、ここは夏には人で埋め尽くされるけど、今はいくつかの人影がゆらめいているだけだった。そして海を隔てたすぐ目の前、泳いで渡れそうなほど近くに島が迫っている。大きな岩がゴロゴロしていて、その岩肌に当たった波が白く砕けている。灯台はいつの間にか見えなくなっていた。


 砂浜を右手に見ながらさらに自転車を走らせると、大きなカーブを曲がった先に、島へと続く竜ヶ島大橋があらわれた。大橋とはいうものの、実際は車がすれ違える程度の広さしかなくて、車で連れてきてもらったときには、ほんとにあっという間に島に着いてしまった。


 でもこうやって来てみると、橋の上からは眺めがよくて、潮風がとても心地いい。自転車を止めてちょっとひと休み。


 青空にくっきりと浮かぶ真っ白な雲。


 橋の向こうにはどこまでも続く大海原。


 欄干にもたれ、額の汗をぬぐいながら水筒の水をひと口飲むと、体のすみずみに染み込んでくるみたい。続けてごくごくと飲み込む。


 突然、視界を黒い影が横切った。


 左手で髪をかき上げ空を仰ぐと、一羽のトンビが弧を描いて舞っていた。

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