第2話 RPG ── 4

                ■■■


【F-311 RPG 第20回実験】

担当者:マリ・イズミ博士

実験補佐:IVクラス職員3名

被験者:EEE災害対処職員 ミラ・ジョルト、レイジ・ミカゲ、セリナ・レーシュの3名


19回までの実験で、VIランク職員での実験では解明できない部分が多くみられたため、EEE災害対処職員3名の使用許可をIIランク職員管理者に得たうえで今回の実験に臨んだ。


F-311通称“RPG”の周囲3メートル内での撮影は、未知の障害により映像データにノイズのみが映し出されてしまうため、“彼ら”の会話を室内に仕掛けた集音機器により録音。

長期の実験により、当該EEEの解明につなげる。

以下は内部でおこなわれた会話を、各実験ごとに報告書に書き起こしたもの。


【以下、第20回実験記録】

 ──ミラ、レイジ、セリナの被験者3名が入室。

 ──第19回までの実験により、被験者らは室内の光景(日本の一般家屋室内)が見えているものと推定。外部から視認した室内の光景は一切変わっておらず、当該EEE「F-311」と3名、テーブルと椅子のみが確認できた。また、音声のやり取りは室内に埋め込まれた集音器とスピーカーにより可能となっている。

 ──マリ博士の指示により、3名が椅子に着席。


『3人とも、気分はどう? なにか身体に異変は?』

「ありません」「ねーな」「大丈夫そうです」


『なにが見える?』

「テーブルに食事があります」「野球中継」「向かい側の席に丸まった猫さんが一匹います」


 ──彼らの回答により、彼らがF-311の幻視空間“RPG-2”を見ていることを確認。RPG-2への入室条件


①20代以上の女性1名「A」

②10代の女性1名「B」

③10代女性よりも年齢が高く、20代以上の女性Aよりは年齢が低い男性1名「C」


の存在が達成され、RPG-3が姿を現す。


「うっわ!? なんだよこのオッサン!?」

「一体どうやって……。セリナ、見ていた?」

「突然、現れました……目の前で空間が揺らいだかと思ったら次の瞬間にはもう、この男性が座っていて──」

『問題ないわ。男性はあなたたちに危害を加えてはこないはずよ』

「そう……みたいね。猫の身体をでているわ」


「なあ、センセー。オレらはどうすりゃいいんだよ? このオッサンをぶっ飛ばせばいいのか?」

『今からあなたたちには、<家族>になってもらうわ』

「ああ!?」「どういうことでしょう?」「家族……?」

『その空間を保つには、擬似的ぎじてきな家族を演じる必要があるの。ミラが母、レイジが兄、セリナが妹よ。他の指示は必要があればだすわ。あなたたちはRPG-2──その幻視空間が解除されるまで雑談を続けるように』


 ──マリ博士の指令後、室内は10秒沈黙。


「冗談じゃねーぞ。オレらが<家族>だって?」

「実験なのだから仕方ないわ。博士の指示に従いましょう」

「男性のことは無視して良いんでしょうか?」

「おそらくね。攻撃的な態度を取り始めたら、こちらもCODEで対応しましょう。……それより、何を話せばいいのかしら」


 ──しばし、被験者らの困惑の声が続く。

 ──最初に話を切り出したのは被験者レイジ・ミカゲ。


「おい、あのナイフ高かったんだぞ。どうしてくれンだよ」

「ガキのくせに調子に乗るからそうなるのよ」

「うるせー」

「馬鹿力女って言ったこと、取り消してください」

「先に仕掛けたのもレイジだしね」

「細けえこと気にすんなって。わかった、オレも男だ。さっきのことはお互い水に流そうぜ、セリナ」

「はあ……わかりました。わたしもナイフを壊してしまいましたし、その点は謝らせてください。すみませんでした、レイジさん」


「ンだよ、素直でカワイイとこあるじゃねーか、セリナ、気に入ったぜ!」

「いえ、兄以外の男性からの好意は受け取らない主義ですので」

「ブラコンかよ。幸せになれねーな」

「この件については一切他人の意見を聞きません」

「ガチだなこいつ」

「ってか、ここじゃオレが兄なんじゃねーの?」

「は?」

「そ、そんなに睨むなよ……」

「フフ、いいじゃない、私も気に入ったわ、セリナのこと。最初は不安だったけど、上手く仕事をこなせそうな気がする」

「チッ、のんきなもんだぜ。……だからお前はそんなに睨むなっつーの! 役割なんだから仕方ねーだろ!」


 ──しばし沈黙。


「……RPGって、どういう意味なんでしょう?」

「F-311の通称のことね? 私が知っているところでいえば“傲慢なる斧アロガンスアックス” “貫通男” “アバドン”というのがいる。皆、未知の能力による特徴からつけられた名称よ。セリナが処分した“殴り肉”のように、意味があるはず」


「セリナ……あーっと、妹か? 妹よ、ロールプレイングゲームって知ってっか? RPGってのはその省略形だよ」

「ロールプレイングゲーム? どんなゲームですか?」

「プレイヤーが役割になりきって遊ぶんだ。戦士とか魔法使いとかさ。俺なんかは敵側について味方側をPKせんとうふのうするほうに面白さを感じるけどな。ナヨっちいやつほど強い職業につきたがるんだ。テレビゲームじゃ主流のジャンル……っつってもこっちのやつらには伝わんねえか」

「こちらの世界にもいろんな機器が流入しているから、知っていても不思議ではないでしょ。ピコピコのことくらいは」

「ピコピコ!」


 ──レイジの笑い声。


「昭和かよ! あんたいくつだ、年ごまかしてんのか?」

「それセクハラよ。社会的倫理コンプライアンス違反として報告させてもらうから」

「ハッ、勝手にしろよ。おカタい女ってのはすぐルールを持ち出して理論武装しやがるからな。自分は弱いんですって周囲に叫んでるようなもんだぜ」

「あなた。ちゃんと仕事をやる気があるの? ないなら別の人員をマリ博士に補充してもらうわ。EEE災害対処職員は遊びじゃないのよ」


「わーったわーった、悪かったよ。同じ条件で選ばれた仲間同士だ。仲良くやろーぜ」

「本気で言ってるんだかどうだか」

「おいおい、謝ってんだから機嫌直せよ」

「私情を仕事に持ち込むつもりはないけど、あなたの心証は最悪になったということだけは伝えておくわね」

「おーこわ。なあ妹、女ってそんなに年のこと気にしてんの?」

「レイジ!」

「ごめんなさいでしたー! もうなるべくしゃべりませーん! ボクはムスコ役です!」

「まったく……」


 ──幻視空間RPG-2が消滅。

 ──実験継続不可となり、第20回実験終了。

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