第1話 殴り肉 ── 5

                ■■■


「終わりました」

「ご苦労様。自室に戻って休みなさい。追って連絡する」

「はい」

 地獄絵図の渦中かちゅうにいた年端としはもいかない少女は、エージェント・マハナから厚手のタオルケットを受け取って研究室を後にした。


「……あれは、魔法なのでしょうか?」

 エージェント・ゾゾの問いに、エレボス博士が声を弾ませる。

「いいや、CODEさ。それも特上とくじょうのね」

 くつくつとエレボス博士の笑い声が研究室に響き渡った。エージェント・ゾゾの顔は青ざめていた。異世界から持ち込んできた機器──パソコンを使用している研究員が博士に報告する。

「博士。D-156の死体を含む室内からは、およそ1000ELエル魔素まそを収集できました。VIランクの職員は20名ほど死んだので、ひとり20EL換算するとD-156は600ELの魔素を所持していたことになります」


 研究員の報告も博士の心持こころもち上向うわむかせた。

 新たなエネルギー源として期待されているEEEは、Dランクのものでも600ELという莫大ばくだいなリソースを生み出すのだ。600ELもあれば、1000人規模の民間人の生活を6~7日間は支えられる計算である。


 いや、それよりも今はセリナのほうが圧倒的に重要だ。

 EEE研究の第一人者である博士にとって、セリナの存在は神からの贈り物のように思えた。

 無数に存在するEEEの解明を進めるためには、彼女の力が必要だ。

 死の概念から解き放たれたCODEを有する彼女の力が。

 絶対に手放すわけにはいかない。

 自分が満足するまで、働いてもらおう。

 エレボス博士は、すぐさまデータベースにアクセスし、セリナに関する情報を書き換えた。



                ■■■



【IIIランク職員により、一部編集済み】

───第二EEE収容所 所属職員レポート P20───


名称:セリナ・レーシュ

種族:EEE(人外敵性存在)

性別:女

年齢:14歳

所属:第二EEE収容所 特別対策課 EEE災害対処一般職員

カテゴリ:殲滅(アナイアレイションクラス)

リスクレベル: C

EEE攻撃属性:反撃系

CODE:No.44「リジェネレイト」

【特性】

再生。生まれ変わる。

特性①攻撃を受けると、周囲の魔素を使用して肉体を再生。

特性②受けた攻撃すべてを、同等以上の力としてアウトプット可能。

特性③死に瀕した場合、自己の基礎能力を飛躍的に上昇させる。

対応手段:当該生命体を他の生命体、特にEEEと戦闘させないこと。

     自発的な鍛錬をさせないこと。拷問にかけないこと。

     処分する際は、こと。


以下、編集項目なし。


                ■■■



 数分後、同IIIランク職員の手により、下記項目のみが再編集された。


<削除済み>

カテゴリ:殲滅(アナイアレイションクラス)


対応手段:当該生命体を他の生命体、特にEEEと戦闘させないこと。

     自発的な鍛錬をさせないこと。拷問にかけないこと。

     処分する際は、こと。


                ↓↓↓


<編集済み>

カテゴリ:安全(セーフティクラス)


対応手段:現在は不明。引き続き対応手段を研究中。


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