第23話

 西国王と王子達、彼らに従う大臣貴族達、騎士達を拘束し終わり、さてどう処遇しようか、と皆で話し合っていた。


「遺恨を遺さぬよう全員斬首がよろしかろう」

「賛成です」

「どうせ殺すのならイヅチ殿に今回の件が耳に入った場合に備えて生贄になっていただくのはいかがでしょう」

「うむ、その方向で」

「兄さんにバレると叱られるから言わない方向で……」

「いくらイヅチ殿といえど王の首がすげ変わったのには気付くでしょう。ここは最初から正直にお話ししておいたほうが良いですよ」

「ウィルダ原野で怒りを発散してもらえばどうか。あの辺りは狂暴な魔獣魔物が跋扈する地ゆえ、開墾したくとも近付けぬと民からの訴えがある。生い茂った草木も焼き払ってもらえば手間が省けよう」


 兄さんの恐ろしさを欠片でも理解していた者は顔を青褪めさせて震えていたが、理解していない者――西国王と王子達は猿轡をされているにも関わらず喚こうとしていた。ハハハ。ガンバレガンバレ。


「遅くなったね、ハワード。皆さん、お疲れ様です」

「サディアス様、お怪我は」

「ないよ」

「お疲れ様」


 現れたセジウィック家の当主におじいちゃん達、その場にいた魔法騎士達が略式の礼を取った。

 ボクはしない。ガドー家は王に召し抱えられた傭兵だったから。自分の使えるあるじにしかしなくてもよい、という許しを先々代の西国王から許可をもらっていた。


「逃げ出した鼠はいましたか?」

「ええ、わずかでしたが。全て捕らえましたよ。王がイズナ殿に危害を及ぼしたと知って、皆さん絶望顔でしたね。その場で私などに忠誠を誓ってくださる方まで出る始末でした。先代が愚かだと後継は運営が楽で良いです」

「またまた、ご謙遜を。セジウィック家が王権を取ってくださるならこちらは願ったりかなったりですよ。ガドー家うちの雇用はどうします?」

「そのあたりはおいおい、でしょうか。イヅチ殿に気に入っていただけないと難しそうです。うちはガドー家と関りがありませんでしたから、感じてもらう縁も恩もないのですよねえ。もういっそイヅチ殿とルース様で王国運営しませんか? セジウィック家が補佐しますので。

 ああ表舞台に立ちたくない……。裏でこそこそ画策してたい……」


 胃の腑のあたりをしきりにさするセジウィック家当主の視線はまるっと無視した。ちらっちらっうるさい。


「ボクに言われても。兄がやると言えば従いますよ、ガドー家ボクらは」

「はあ……、そうなりますよねえ、やっぱり。どうやって説得したものか……」


 腕を組むセジウィック家当主は鋭い目つきで考え込んでいる。

 よく動く頭を使っていかに兄さんを王様いしようか考えてるんだろうけど、アンタのそれって洗脳って言わない?


「じゃあ兄達に伝書を飛ばしてきます」

「頼みます」


 荷物を持ちに帰ってからのことを箇条書きにして伝書を飛ばした。ウルハシィ達にも同じ様に伝書を飛ばしておく。

 大した用じゃないだろうから夜には帰れるって言って出て来ちゃったんだよね。夜どころか朝がすぎて昼近いよ、もう。心配してるよね。

 兄さん達が来るまでに城内の掃除をしておこうっと。けっこうあちこち汚れちゃったんだよね。こういうときに水属性持ちは羨ましい。……白髪頭のことなんて思い出してない。ぜんぜん。

 さあ掃除掃除!


 赤黒い染みの付いた絨毯を手洗いしようか燃やそうか迷っていると前触れなく空間が歪んだ。

 誰かが空間魔術を使ってこちらに来ようとしている。兄さん達のところに伝書が届くのはまだ時間がかかると思うんだけれど……誰だ?


「無事か!」


 白髪頭だった。……なんでそんなに焦ってるんだよ。


「無事だな?!」


 ヤツの着地と同時に勢いよく両肩を掴まれた。見てわかれ。返り血で多少汚れたけれど、怪我なんてひとつも負っちゃいない。


「……伝書には無傷だって書いたけど」


 というか、なんでお前がここにいる。東国にはまだ伝書が届いてないぞ。

 動揺を見せたくない、けれど顔を背けるのも負けたみたいでイヤだ。


「――いや、そこまで目を通していない」

「は?」

「お前を追ってガドー家を訪れたのだが、王城に召喚されたと聞いてな。帰りを待たせてもらっていた。伝書が届き第二王子に迫られたと目に入り飛んできた」

「……ちゃんと最後まで読め。わざわざ空間魔術使うな。家まで来るな。ウルハシィ達が驚くだろ」

「――すまん」


 肩を掴む手を払う。絨毯、燃やすか。


「イズナ」

「ちょうどいいや。後始末手伝ってけよ。兄さん達が来るまででいい」

「――それは構わないが」


 詳しい経緯を説明してくれ、とヤツはボクから絨毯を奪い、水魔術できれいに洗浄した。

 やっぱり便利だな、水属性。

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