第8話
ボンクラハゲデブ王のどーでもいい長口上がようやく終わった。
あ、デブとブ男と王をかけてみたよ。
ただいま舞踏会真っ最中でーす。
出発直前までてんやわんやだったおかげでろくに食べれなかったからお腹減ってるんだよね。さっさと終わってくれないからもう限界。いただきまーす。
……まずいとは言わないけど、そこまで美味しくもないよね。料理長が代わったせいかな。
前の料理長は王族に無茶振りされまくって体を壊した挙句に解雇されたんだよね。
ボクからすればあんな美味しい料理を作れる人材を使い捨てるなんて気が狂ってるとしか思えない。数回食べただけだけど、すごく腕の良い料理人だと思う。
王宮を解雇されたって事で、王族に睨まれたくないから誰も料理長を雇わなかった。働き口もなく、住んでた所さえ追い出されて路頭に迷っていたので分家に拾ってもらった。
今なら家にいる時間も多いし、うちの屋敷に来てもらいたいけど分家にも慣れてきたところだろうし、やめといたほうがいいよね。
その内弟子とか回してくれないかなー。
しっかしあのボンクラの顔色が前に見た時より圧倒的に悪くなってたんだけど、あーめんどくさ。
あれぜったい呪われてるやつじゃん。あのボンクラそこまで心身の耐性がなかったのか。
宮廷魔術師とか魔法騎士は何やってるんだか。会場にいる近衛を見た限り、洗脳されてる可能性が高いかな。
今城に詰めてるのってほとんど戦争に参加した事のない若手か、無能だもんねえ。仕方がないといえば仕方がないか。
生き残った
まあ呪詛を国王に使う様な人間に西国をどうこうされるのは困るし、恩を売っておきますか。
恩を恩とも思わなそうだけど。見返りなさそうだけど。むしろ恩を仇で返してきそうだけど。はあ。だから人望ないんだよ。
呪いを解くためだって言い張って一発くらい殴っとこ。それくらい許されるよねー。
そうときまればさっさと情報収集しよう。
幸い会場の視線は兄さん達に集中してるし、抜け出すのくらい訳ないよね。
密かに会場を抜け出す。
呪いがどの程度広がってるかくらいは把握しておかないとね。
ボンクラの呪いを解いても王子達や重臣たちが洗脳されてたら意味ないし。
まずどこから探ろうかなー。黒幕を見つけられたら一番手っ取り早いんだけどなー。
まあそんなにうまくいくわけないよね。
「ほう、これはこれはガドー家のイズナ様ではございませんか。今宵は愛らしい格好をしていらっしゃいますなあ。いやあ眼福眼福」
うーん。
一見して洗脳されてるようには見えないけど、言動はすこぶるおかしいよね。
目かな。それとも頭? そうとう悪いよね。
「此度もいつものような男装をしてくるかと思えば……。その様な姿をなさるとひと際女性らしく見えますなあ。
愛しの兄君に婚約者ができたからですかな? それとも男を漁りにいらしたのかな。そうであれば是非とも立候補いたしましょう」
双方共にものすごく悪いみたいだ。気持ちわる。呪いにでも当てられたか?
こっちに近寄ってきながら手をわきわき動かしてるけど気持ち悪い。
こいつの頭の中はずいぶん酷い事になってるみたい。ニチャニチャ笑ってるのが気持ち悪い。
脂ぎった顔やら手やらも、魔蟲に寄生でもされてんの? ってくらい膨らんだ腹も、全部が全部まるっと気持ち悪い。
吐き気をもよおす邪悪ならぬ吐き気をもよおす醜悪。おえ。
とりあえず太り過ぎた哀れな芋虫のような指に触れられるのも嫌なので、素早く後ろに回って鉄線で首を殴打しておいた。ふ、それは残像だ。
この鉄扇は帰ったら燃やそう。
兄さんだったら跡形もなく燃やし尽くしてくれる。
のびた男、えーと、誰だっけ。たぶん戦場に来たことのない男爵か子爵あたりだ思うんだけど。
見覚えとかまったくないよね。どこの誰なんだろーねっと。
今は胸ポケットのハンカチに刺繍されていた家紋を覚えてだけに留める。
ボクと同じくらい気持ち悪い体験させてあげるから覚えてろよ。
触るのはもちろん嫌なので風魔術で近くの部屋にポイしておく。記憶はいじっておいたから起きてもボクの事はすっかり忘れてるよねー。
やれやれ、と手を払いながら扉を閉めると何とも言えない顔でやつが立っていた。
「――助けはいらなかったようだな」
「そりゃね。なにかあった?」
「――特筆すべきような事はなかった」
ふーん? あからさまに何かありそうだよね?
まあいっか。兄さん達に何もなければ。
兄さん達をどうこうできるやつなんて魔法騎士でもいないし。
……兄さん達の結婚に関して文句言ってきそうだし、黒幕を脅してボンクラに結婚証明書を発行してから呪いを解こーっと。
「会場にいた近衛(やつら)は軒並み洗脳か精神汚染を受けているな。集まった人間の生気を吸うための血界はすでに破壊しておいた」
「お疲れ様。こっちは特に収穫ナシ。頭のイカレた下級貴族を畳んだくらいだよね」
「――そうか」
なにその顔。言いたい事があるなら言いなよね。すっきりしないなあ。
「ボン……ンンッ。王様は確実に呪われてるとして、王子達はどうなのか調べないとね」
「――そうだな。そちらは俺が受け持とう。お前は後宮の方を頼む」
「後宮かあ。あそこってドロドロしててあんまり行きたくないんだよね……。しょうがないか」
「風伝書(これ)を渡しておく。なにかあったら飛ばせ」
「りょーかいりょーかい」
風の伝書ねえ。
こういうそれなりに貴重なものをさらっと手渡せるって事はささっと作れるって事なんだよね。腹立つ。
ボクだってその気になれば作れるし。面倒だからつくらないだけだよね。くっそー。
「舞踏会の終了時間十五分前に会場に集合でいいよね」
「ああ。武運を祈る」
「どーも。あんたのも祈っといてやるよ」
「――感謝する」
なんでそんな意外そうな顔してんの? ボクがそこまで失礼なやつだと思ってんの? 武運を祈ってもらったらふつーに祈り返しますけど? あとで殴る。
腹が立ったので足音高く乱雑に歩きたいところだったけど、後宮は警備がぶ厚い場所のひとつなので、静かに歩く。諜報だったら兄さんにも負けないよね!
後宮は案の定ドロドロしていた。空気が。いつ来てもドロドロしてる。
ぜったいあのボンクラのせい。側室持ちすぎなんだよあの色ボケ。
しかし今日はそのドロドロとは違う空気が渦巻いていた。
黒幕がいれば話が早いんだけど、この感じならいるとしても噛ませ犬かもしくは中ボスくらいかな。
今日の舞踏会には正妻と第三位までの側室しか出てないからそれなりにひとはいるはず……なんだけど。
人気がない。
たまに見かける女官達の顔は青白く、生気がない。目が死んでる。さながら歩く死体だよね。
魔力だけならまだしも、生命力まで吸われてるとめんどうな事になるなあー――。
もう今の状況だけで十分めんどうなんだけど。
本当、近衛達は何やってんだ。
一番ドロドロと魔力の濃い部屋では側室が悪魔に憑かれていた。
第十三位のジャニス・テニソンだ。
ヘタするとテニソン家は取り潰しだよね、これ。
ジャニス嬢は完璧に取り込まれている。無理矢理剥がすと後遺症が出るかも。
まあ装飾品を見る限り自業自得なんだからそのくらいの覚悟はできてるよね。
ジャニス嬢がしている腕輪は生物の血を代償として装備者が憎く思うものを呪うという、まさに呪われたアイテムだ。
珍しい物だけどどこから手に入れたんだか。商人とかもチェックしないとなのか~~。めんっどくさ~~。
よし、その辺は近衛が正気に戻ったらやってもらおう。
「我は偉大なる大公爵ダンタリオン様に仕えし大悪ヴァッ!!」
わざわざ実体化しようとしてくれたので速やかに蹴り飛ばしておいた。
ジャニス嬢を傷付けずに済んだよね。ヨカッタヨカッタ。
さーて、キリキリ黒幕を吐いてもらおうか。
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