街灯

 バチッ、バチッ、という音が鳴ったとき、私は五歩ほど先にある街灯を見上げた。注意深く見なくても分かるほど錆が目立っており、まるで枯れ葉のような色合いだった。雲一つない晴れ間だというのに、信号の点滅のごとく灯りが点いたり消えたりを繰り返していた。その焦げ茶色になった部分を触ろうとすると、身体を少し揺らすほどの風が吹いた。私は来ていたコートの襟を立てて、耳に手を当てた。そのまま駅に向かって歩いていると、手を繋いだ親子が眼に止まった。ベージュ色のニット帽を被った五歳ほどの娘が父親を見ながら話しかけていた。

「お母さん、寒くないかな」

「大丈夫だよ、お母さんは暖かいところにいるから」

 茶色のジャケットを着た父親は娘に合わせてゆっくりと歩いていたが、どこかしら左足を引きづっているようだった。

「お手紙読んでくれたかな」と娘は幾分か声高にそう言った。

「読んでくれていると思うよ」

 それを聞いた娘は、そうだよね、と言いながら笑った。その眼には一点の曇りもないほどの鮮やかさがあるように思えた。またしても強い風が吹いて、木々を揺らした。冷たい空気の中でからっとした陽だけが暖かく、木々の影になっている部分を歩いていると寒さが襲い、陽が当たる部分ではコートが余計なほどの暖かさだった。

「今日は久々だね」

「そうだね、ここ最近会えてなかったから、お母さんも寂しがっていると思うよ」

「早く会いたいな」と娘は言った。

「私も早く会いたいよ。でも、お母さんを無理させてはいけないよ」

「うん、わかってるよ」

 駅に近づくにつれて、その親子の足取りは早くなった。親子が駅の改札口に入ろうとしたとき、娘がこちらのほうに来て、持っていた空き缶をゴミ箱に入れた。娘は私を見てニコリと笑ってから、改札口のほうに走り出した。駅の改札口を隔てて陽は差し込んでおり、それを皮切りに世界を区切っているみたいだった。走っている娘には眩いほどの光が当たっており、改札口にいる父親にはうっすらとしか陽は当たっておらず表情ははっきりと見えなかった。

 私は自分の家族のことを考えた。愛おしそうに革靴を磨いている父親、神妙な顔つきで風景がを書いている母親、夜遅くまで遊んでいる弟、そして我が家でご飯を食べているときのことを想像した。バチッ、バチッと音が聞こえてきた。私は空を見上げた。

 

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