#52 ドワーフと精霊
マスターとの打ち合わせが済んだ後、しばらくカフェで粘っていると、先日のドワーフを発見することができた。
彼はすっかり酔いがさめていて、元気いっぱいな様子だ。
昨晩のこともしっかり覚えていてくれて、実にフレンドリー。
見るなり「昨日ぶりだな、兄弟」とあいさつを返してくれる。
酒場で顔を合わせても無言の、どこぞのエルフとはえらい違いだ。
「元気そうだな兄弟、ちょっと聞きたいことがあって」
彼は俺が精霊について知りたいのだと言うと、「なるほど」といい、彼は仲間に待っとくよう合図を送る。
少々説明が長くなるらしい。
「精霊は、自然そのものが人格を持ったものだ。自然を擬人化したものこそ精霊。今ワシらが踏んでいるこの大地、ここにだって精霊はおる。精霊を知るということは自然を知るということだ。わざわざワシに聞くまでもないようが気がするがの」
「エルフは精霊と対話して、魔法を頼むと聞いた。それについて知りたいんだ。なにか知らないか、兄弟」
「エルフのアレか。もちろん知っているぞ、兄弟。精霊と対話するということは、自然と対話するということだ。お前さんも、山を登っている時は自然と山と話しているであろう。それを思い出してみろ。その対話の中で、雨が冷たくて苦しいとか、斜面が急で怖いとか言えば、精霊も答えてくれるというだけのことだ。魔法を頼むとか大層なものではない」
なるほど、わからん。自然と対話ってなんだ。
山登りをしたことはあるから、雰囲気だけならわからなくもないけど。
「じゃあ、山と対話中に雨が冷たくて苦しいと思えば、雨が止むってことか、兄弟」
「わっはっはっ、さすがにそれは都合がよすぎであろう。山の精霊は水の精霊とは別物だ。せいぜい雨宿りができる洞窟が見つかるくらいだな」
精霊に辛いというと、洞窟を掘ってくれるのか。
それでも全然都合がいいが、にゃるほど、領分を超えて魔法を使ってもらえるわけではないってことね。
あと、なにが起きるかは指定できるわけじゃなくて、精霊の判断にまかされてるってことかな。
「山の精霊が自分の身を削って洞窟を?精霊は寛大なんだな。彼らはその力を使って疲れたりしないのか?」
魔力消費は精霊持ちなんだろうか。
「母なる大地が寛大でなかったら、今頃ワシらはお陀仏よ。ワシらは精霊全てに許されて生きておる。今さら少々のことでは怒らんさ。それに、力を使って疲れないかだと? 兄弟は、いちいち口をあけたり腕を動かすのに疲れたと思うか?」
「1度や2度なら、大したことないさ。けど100回1000回ともなれば話は別だろう?」
「ふむ、たしかに数こなせば疲れることはあるな。精霊も同じかもしれんが、彼らは気まぐれだ。その前に飽きてしまうだろうよ」
魔力は精霊持ちっぽかった。
代わりに疲れたり飽きたら、お願いを聞いてくれない可能性がありそうだ。
だいたい全貌はつかめてきた感じがする。
まとめると
・精霊は助けてと頼むと答えてくれる
・どのように対処するかは精霊判断、指定するものじゃない
・疲れてたり飽きてると答えてくれないことがある
ってことだな。
「精霊ごとに性格に違いがあると聞いたんだが、土精霊だと穏やかだったりするのか?」
「大地が荒れ狂うことがあるか? 土の精霊が穏やかでなくては、我々はまともに歩くこともできまい。水の精霊なら時折狂ったように騒ぐ事もあるがな。自然の様子をみれば、その性格なぞ一目瞭然であろう。考えるまでもない、自然を感じれば自ずと答えは出ているはずだ、兄弟」
自然を感じれば、か。
スピリチュアルな言葉だが、内容は合点がいく。
兄弟は説明が上手いな。
「助かったよ、兄弟。知りたいことはわかった。これで上手くいきそうだ」
「なに、酒の礼だ。また飲もう兄弟。ワシらはいつでもあそこにいる」
確かに、いつでも酒場にいけば会えそうだ。
俺はふと、酒場の奥でいつでも俺を出迎えてくれるドワーフの姿を幻視した。
「あぁ、兄弟。また飲もう」
いつでもあそこにいて、いつでも俺を迎えてくれるドワーフ。
ひどく、心にくる光景だ。
俺はドワーフと拳を合わせると、手を振って別れた。
彼は仲間と共にのっしのっしとダンジョンに消えていく。
なんだろう、ファタジーゲームをやってきて、幾度となく見てきたドワーフ種族。
その彼らがこんなにも懐かしくなるなんてな。
酒場の奥でいつでも迎えてくれるドワーフの姿。
……それはこの日から俺の心を暖かにする原風景の一つとなった。
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